「刑事コロンボ」のマイブームが佳境に入って参りました。
ふとしたことから、吹き替え版はあの小池朝雄の声、額田やえ子の秀逸な訳で言葉が日本語になっているだけでなく、SEが全部入れ直されていることがわかった。おそらく音楽だけが別トラックで、SEと台詞は同じトラックに入っていたのでしょう。(オリジナルはアフレコがあまりなく、同時録音に必要なところだけ音を足したんじゃないかと思う。だからNHKが声を日本語に入れ替えたときに、音も全部自前で作り直さなければいけなかったのでしょう。)
で、「溶ける糸」の勝ち誇ったように笑うレナード・ニモイに、珍しくコロンボが感情をあらわにして、水差しをテーブルにドンとたたきつける緊迫した場面(←これも陽動作戦だったことがあとでわかるわけだが)とか、声と音楽のバランスがオリジナルとは違うんですね。そもそも、「ドン」とテーブルを叩く音の迫力が全然違う。そしてそのせいで、テーブルを「ドン」の低く鈍い音をきっかけにして、ほぼ同じ音域で重なるようにBGMの弦楽器の低音が鳴る、というような、おそらくエミー賞の受賞理由になったのであろう秀逸な音の効果・設計が日本語吹き替えでは活かされていないことに気づきまして、
今は、一話ずつ、まず日本語版をみてから英語版で見直すということをはじめてしまいました。それで、全部みるのに、えらく時間がかかっております。
刑事コロンボの音楽担当の人たちのことをあれこれ調べてみると、なんかいろんなところに話が広がって面白そうなんですよねえ。
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が、どうにかあと数話です。
「美食の報酬」のみんなから嫌われている評論家の話(←耳が痛い(笑)、音楽ではなく料理の評論家だが……)に続けて、「秒読みの殺人」が、何でもパーフェクトにできるがゆえに周りから煙たがられている敏腕女性プロデューサーの話なのは、何の偶然なのかと思ってしまいますが……、
コロンボの口調で書くならば、
「うちのカミさんにしょっちゅう叱られるんですが、あたしゃ、根っから飽きっぽいタチでしてねえ……」
「死んだ親父が、よく言ったもんです。
誉 め て 伸 ば せ
って。」
ということで、ちょっとだけ物の言い方を変えるように試みてみましょう。一年ずっと同じスタンスでモノを言ってると、だんだん、飽きてきますから。
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大栗裕は語りとマンドリンオーケストラの音楽物語(ミュージカル・ファンタジー)をたくさん作っていて、色々面白いところがあるからどうにかしたいとずっと思っているわけですが、
ひとつ気になっていることがあって、
それは、あんなにユーモアや笑いが好きそうな大阪人で、書く文章にもトボけた味わいがある人なのに、彼が手がけた音楽物語は、どれも、最後にしんみりと泣かせる話なんです。
よくできているけど、ちょっと昭和な感じがする。
で、時代が違うからしょうがないのかなあ、と思っていたのですが、今日ハタと気がついた。
ユーモアや笑いがよくわかっている人「だからこそ」、コンサートでナレーション+洋楽合奏という形式では、笑いを取ろうとしても容易じゃない、と、わかっていたのかもしれない。
語りと音楽、というのは、要するに、語の本来の意味でのメロドラマ(メロディ+ドラマ)ですが、この上演形式はしんみり泣かせる方向へ行ったほうがうまくいくってことに、大栗裕は気づいていたんじゃないか。
思えば浄瑠璃だってそうですね。先の「三井の晩鐘」も、あまりのことに泣くことすら出来ないメロドラマですよ。そしてそれは、好き嫌いでどうにかなる問題じゃない。「オレはクールでシニカルなシティ・ボーイだぜ」とか言っても、シロウトが台本書いてうまくいくもんじゃない。まして、せっかく大阪でやるんだから稽古で笑いを足そう、と考えて小手先のギャグに走るのは……。
誰もやらないのにはワケがある。まして、放送劇も歌劇も舞台音楽も、喜劇も悲劇も時代ものも現代ものも、色々やってドラマの音楽にどっぷりつかっていたプロが手を出さなかったのには、なおさら、ちゃんとした理由があったのではないか。
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ところで、
自分に今何が求められているか、ということが完璧にわかって、出すべきときに出すべき声を出すことができるあの歌い手さんは、自分が今出しつつある声と周囲の音・声の両方を完璧に聴くことができて、めちゃくちゃ耳のいい人なんじゃないかと思う。実はこの春、彼女が野平一郎作品を歌うのを聴かせていただく機会があったばかりなのです。ナレーターだけでは、カッコーの名唱だけではもったいなすぎる人だと思う。マイクを通して歌うときにどう発声するか、とかいうことも、たぶんあの人はとてもよく考えてコントロールしてますよね。
彼女には、鼠の子守歌でその一端を披露していただいたあの声で、いつか、存分に泣かせていただける日が来るであろうと思っております。捲土重来を期すってことで。
みんなも日本語吹き替えと英語オリジナルを聞き比べて、物語を「聴く耳」を鍛えよう!
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↑開始約2分あたりからスタートする「チャッ、チャッ」の衝撃的な破壊力。そして、前のめりをかわしてカクっとなる脱力系の手拍子。これを凌駕する「笑い」を西村朗に突きつける真の勇者は誰だ!