増田聡、谷口文和「音楽未来形」

増田聡、谷口文和「音楽未来形ーデジタル時代の音楽文化のゆくえ」ISBN:4896918991

最初に思ったのは、コンピュータなどの技術解説書のような文体だな、ということでした。最新のテクノロジーをめぐる議論(の文体)にひきずられたのかな、と、はじめは、その程度に思っていました。

けれども、読み進めるうちに、透明な文体は、この本にとって必須のような気がしてきました。この本は、人と音楽を媒介(メディア)するテクノロジーを扱っているというより、そもそも、音楽は、媒介(メディア)のテクノロジー「として」存立しているという立場で書かれているように思います。

増田さんは、あとがきで、本書が「音楽学の立場」で書かれたと記しておられますが、この文体と、それに対応するスタンス(「媒介テクノロジーとしての音楽」)は、旧来の音楽学ではなく、「音楽学の未来形」なのかもしれませんね。

この本は、新しいテクノロジーの介入が音楽そのものを更新するムーヴメントに焦点を当てていますから、本書の構図では、クラシック演奏会のように、「楽器/楽譜/楽音/空気振動」といった、昔ながらのテクノロジーに媒介された音楽は、後方へ追いやられていくことになります。

もしも、演奏会音楽のような「過去」になりつつある音楽が、「未来の音楽学」にも登録されつづけることを望むのであれば、それにふさわしく、ドキュメントを書き換え、整備しなおさないといけないのかな。

そんなことを考えました。

例えば、「楽譜」というテクノロジーの特質が、岩城宏之のエッセイごとき(失礼)で代表されてしまうというのは、いくらなんでも、寂しすぎる!(笑)