つい10日前にアルティ四重奏団でガリツィンのイ短調の四重奏曲を聴いたばかりでもあり、「第九」の見え方が私のなかで変わりつつある。
これぞベートーヴェンのシンフォニーの集大成であり、ロマン派の誇大妄想的なカンタータ交響曲への道を開く孤高にして異形の大作なのだ、とありがたく受け止めるか、
あるいは、
「ウィーンはもうダメだ、ロンドンだろうがペテルブルクだろうがカッセルだろうが、もう、俺はどこへでも行ってやる」と半ばやけくそ気味だったベートーヴェン(←最近の日本の大学でイジめられ続けて心が弱っている人文系の先生たちを思わせる(笑、←笑い事じゃない))が、気を取り直して精神的に蘇生して、若返っていくアンチ・エイジングな音楽(いわば後期四重奏曲のための壮大な習作)とみるか。
後者の線を打ち出してくれない「ジジむさい第九」を楽しめなくなっている自分がいる。だって第九初演当時、ベートーヴェンは“まだ”53歳ですよ。全然老人じゃない。
(ちなみに、大野和士は1960年生まれだから今ちょうど54歳ということになるらしいけれど、彼は「第九」が自分と同じような年齢の男の書いた音楽だとわかっているのだろうか。まさか、54歳はもう人生の集大成、スゴロクの「あがり」の年齢だ、などと思ってはいないですよね(笑)。)
ハルサイを聴く限りでは、N響のロトの第九も、たぶんそういう若返り路線ですよね。2014年の最後はそういう風に次につながる演奏で締めたい。
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ちなみに、小澤征爾が秋山和慶と斉藤秀雄メモリアル・コンサートをやったのが1984年49歳のときで、サイトン・キネンの名前で海外公演をやり、松本で夏のフェスティバルをやるようになったのは50代後半。ストラヴィンスキーの「エディプス王」とかオネゲルの「ジャンヌ・ダルク」とか、やや若い頃からの仕事の集大成っぽい感じはあるけれど、当時はまだ現役感バリバリだったように思います。
同じような内容の繰り返しがマンネリではない「巨匠の証」みたいなイメージに転換したのは、おそらく2002年にボストンを辞めてウィーンに行った頃以後ですよね。
「小澤征爾も老人になるんだ」とみんながようやく納得したのは病気になった70歳のときかもしれない。
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(そしてその先には、60代後半から70代前半で大阪フィルを欧州や北米へ連れて行って、ようやくブルックナー指揮者になりはじめたばかりの朝比奈隆(そのあとがまだ20年ある)が控えているのですから、ゴールは遠いよ。)