たぶん電波は「網」ではない(2)

電波は、農業由来と思われる散布 broadcast の技術として運用されており、近代の都市整備が発祥の水道・ガス・電気のような網 network を形成しているわけではない。

この区別は、色々応用が効きそうだ。

(1) 蓮實重彦がテレビ嫌いなのは、生粋の都会人で、農薬を頭から振りかけられるように電波を浴びる農民的な風俗を好まない、ということかもしれない。(あの世代には、学童疎開やGHQによるDDT散布という伝説的な屈辱の記憶もありそうだし……。一方、仏文時代の宿敵だったかもしれない大江健三郎は、四国で自らDDTの缶に飛び込んで粉まみれになる感じの育ち方をしていたわけだが。)

(2) 固定電話は対象の位置を一意に特定できるネットワークだが、無線電話(携帯)は電波を散布する放送の応用で、いわゆる位置情報はあとづけの技術に過ぎない。無線電話からの通報に対して、警察が固定電話への対応と同等に迅速かつ正確に対応するべきだ、と叱責するのは、メディア論の観点からすると、やや無理筋なのかもしれない。「全国系列」の「放送網」で皆さんひとりひとりと直接つながっています、というフィクションを喧伝している放送局が、電波はネットワークです、と言い張るのは営業上仕方がないかもしれないし、携帯事業者にとってもパーソナルな「つながり」は格好のセールストークではあるのだろうけれど、警備・防犯は、たぶん、それでは立ちゆくまいし、無線電話を携帯しているからといって、私たちは、他人と「つながっている」という風に信じこまないほうが安全かもしれない。これは当事者意識を欠いた傍観者の無責任な感想以上のものにはなり得ないけれど、危険な存在の目の前で携帯を使用するのがいいか、しないほうがいいか、判断はかなりクリティカルだと考えざるを得ないかもしれませんね。少なくとも、固定電話より場所を特定する確度はかなり落ちてしまいそうだ。