吉田秀和「日本人音楽家の運命」から半世紀

たぶん全集未収録だと思うのだが、まさに彼がこのように書いた1960年代に生まれた私たちは、その後の人生を精一杯に生きた証しとして、彼が提起した様々な問題を私たちがどのように解きほぐしたか、あるいは、解きほぐそうと努めたか、きちんと書いてから死ぬべきであろう。

複数の音楽性の肯定は、1965年(奇しくも私が生まれた年だ)の吉田秀和が考えたような小澤征爾・岩城宏之らの活躍だけによって達成されたわけではないのだから。

敗戦直後の洋楽シーンにおける森正やBK放送合唱団や近衛秀麿の意義について、おそらく吉田秀和がこれほど明確に書いた文章は他にはない、というだけでも、芸術新潮に1年間連載された「日本人音楽家の運命」は、読み直される価値のあるテクストだと私は思う。