他者との共振

他者の死は、語の最も厳粛な意味で「他人事」である。

共感・共振の名の下に、他我の埋めようのない差異を乗り越えて、仮想的にともにありつづけようとすることだけが、この厳粛な他人事に対する唯一の対応であるとは思われない。

それを他人事であるとは容認しがたい立場というのがあり得るが、幸か不幸かそのように切迫した立場ではない者までもが同様に共感・共振を演じるのは、埋めがたい不在の切実な悲しみがありうることを尊重すればこそ、むしろ僭越と言うべきであろう。

死者を弔う宗教儀礼は、仏教においてもキリスト教においても、「(他者の死に際してなお)生き続ける者」である我々のなすべき勤めは何であるか、と我々自身に問いかける。

そして音楽とは振動であり、聴覚は振動を受け止める感官である、と、ひとまず言えるのだとすれば、私たちは、日々、そのような厳粛な他人事をどのように受け止めればよいのか、鍛錬を怠らない存在なのかもしれない。

他者への共振がどのようにあり得るか、共振するのかしないのか、する(しない)としたらどのような仕方によってなのか、その繊細な作法の積み重ねが聴覚文化なのかもしれない。

音楽とは、あたりかまわず、ワンワンガンガンと鳴り響き続けることではないはずなのだから。

シンフォニエッタシリーズ 西村朗/室内交響曲 第4番<沈黙の声> (Zenーon sinfonietta series)

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いずみシンフォニエッタ大阪 プレイズ 西村朗 沈黙の声(西村朗 作品集 17)

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