劇場通い

チャイコフスキーは役人の頃からペテルブルクの劇場に通い詰めて、往年の西欧への憧れと幻想を眼前に繰り広げるオペラやバレエを見ながら、なぜかこれを「シンフォニー」だと思ってしまった人なのではないだろうか。

小鍛冶邦隆さんが、あのオーケストレーションはイタリア・オペラだ、と書いているが、舞台のスペクタクルとシンフォニックなものが、彼の脳内では奇妙に混淆しているんじゃないだろうか。

[朝比奈や大栗裕にもそういうところがありそうな気がする。ロシアのフィルタを通して西欧に触れると概してこういう混淆が起きるんじゃないか。ハリウッド映画の音楽にも、そういうところがあるような……。]

海軍軍人リムスキー=コルサコフは、そういう軟弱な想像力が理解できなかったかもしれないけれど、ストラヴィンスキーやプロコフィエフの世代は、若い頃から同時代のフランスあたりの音楽をかなり研究していたみたいなので、三大バレエの数々のアイデアがどこから来たのか、なかなか由来を特定するのは複雑かも……。19世紀末になると鉄道で西欧にすぐ行けちゃって、もう、ロシアは孤立していないですからねえ、今の金沢が首都圏からかなり行きやすくなっているようなもので……。