公演は誰のものか?

文化庁芸術祭の受賞者決定プレスリリース(http://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/media_geijutsusai_131225.pdf)を見ると、

今年の音楽部門は、「公益法人東京オペラシティ文化財団」「公益法人サントリー音楽財団」と、東西で公演を主催する財団に賞が出ている。芸術祭のリリースは、いつもそうですが、「受賞者」「受賞対象」を明記して、特定する形なんですよね。ひとつの公演には多くの様々な人が色々な形で関わりますから。

(関西のほうは審査に加わりましたが、審査経緯は、あとで審査委員長名での報告が「芸術祭総覧」という冊子にでるはずです。)

これまでも、放送の場合は、受賞者=放送局で当然だろうという感じですが、舞台公演(音楽もそこに含まれる)の場合、必ずしも、公演の主催者=受賞者とはかぎりません。むしろ、出演者を特定して、その人に賞を出すほうが普通で、公演の主催者が受賞者になるのは劇団やオペラなどの場合がほとんどで、オペラであっても、指揮者や特定の歌手に賞が出るケースが珍しくないはずです。(なかでも奨励賞は個人に対する賞ですし。)

誰のどんな曲をどういう出演者で構成するか、その企画を立てて、公演を運営した団体に賞を出すことは、今までにもあったとは思いますが、東西重なって表に2つの「公益法人」が並ぶと、ちょっと目立ちますね。

企業が音楽家の活動を支援するために出資して、陰でサポートする、という形ではなく、公演主体として前面に出て来て、誰に何をやらせるのかを仕切る形に興行の力点が移りつつある、もしくは、そういう形でないと、なかなか特色のある企画を打ち出すことが難しい諸々の事情に今はある、ということでしょうか。

信頼するに足る良質の企画運営部門を企業が編成・運営できるのであれば、それはそれで結構なことだし、公益法人はそれを目指すしくみだと思うので、それでいいわけですが、

つまりこれは、企業の文化事業が、いわゆる「タニマチ」として、金を出す以上自分たちの好きなことを好きなようにやらせてもらう、というマイペースな好事家の立場を返上して、企業の文化事業に「プロ化の波」が押し寄せている、ということかもしれませんね。

しかもサントリーさんの場合は、別の財団さんが運営している演奏団体を雇って自分たちの企画を実行したわけで、なにやら、かなり複雑な順列組み合わせですね。

誰が誰を雇って、誰の責任で何が行われようとしているのか、客席の私たちは誰の何に拍手を送っていることになるのか、当事者でもわからなくなっちゃいそう(笑)。

サブプライムローンじゃないですが、こういう風にしくみが複雑になってくると、何かの拍子で筋の悪いものが混ざっても見過ごされて、勢いのまま物事が動いちゃったりする危険が潜在的に大きくなりがちなのが世の常だと思うので、そういうことが起きてはいない今のうちから、襟を正して、冷静に事態に対処するように心がけなければいけませんね。

この人の分限はここまでで、ここからはあの人の領分だ、とか、そういうところを曖昧にするのが一番危ない。

(審査員を依頼されたときには、それが今の世のありさまであるならば、その全体をあるがままに受け止めて、しかるべく判断するだけのことですが。)

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一方、レコード部門は、ほぼ一律に受賞者はレコード会社、レコードの製作者と決め打ちになっている感じですが、これはこれでいいんでしょうか。

演奏家のソロアルバムなんかの場合、ほぼ確実に、今後その演奏家が自分のプロフィールに「文化庁芸術祭●●賞受賞」と載せちゃうだろうと思うのですが……。歴史的経緯で、これでいいことになっているんでしょうか。

(もちろん豊竹山城小掾は、既にお亡くなりになっているので、今さらご本人の経歴に今回の受賞が書き加えられることはないでしょうし、ひとえに音源を発掘した人の手柄、ということかと思いますが。)