「進歩史観」って何なんだ、の件。わかってしまえば大山鳴動……の観があり、アホらしいので結論だけ書く。
(1) 啓蒙と歴史の発展段階論
歴史の「進歩」云々は、キリスト教と対決して世俗の啓蒙された歴史観を確立する困難に関わるようだ。
そうかといって17、18世紀のヨーロッパの啓蒙主義者たちの多くは、歴史に「目的(終点)」を設定することなどできそうにないという結論に一足飛びに到達することもできず、それで世俗化した発展段階論が出てきたらしい。これがヘーゲルの歴史哲学やマルクス主義につながっている、とひとまず大まかな見通しを立てることができるようだ。
発展段階論の成立とその後の展開を思想史として追いかける研究プロジェクトもあるみたい。
そういう文脈での話なのだとしたら、英国での universal/general history とフォルケルの Allgemeine Geschichte における発展段階論の比較と影響関係の検証は、追いかける意義のある仮説ということになるのかもしれない。
(そして18世紀から19世紀への転換期の取り組みがヘーゲルに伝わったと見ていいのか、ということも、別途検証すればいいことであろうと思う。)
(2) ホイッグ史観
一方、勝者は敗者よりも優れているから勝ち残るのであり、優勝劣敗こそが進歩である、という歴史観、いわゆる勝者史観としては、典型的には英国ホイッグ党の政治観がこれである、として、英国政治史にホイッグ史観 Whig history という言葉があるらしい。『近代科学の誕生』のバターフィールドにホイッグ史観を批判する本があるのだとか。
ダーウィンの適者生存の進化論が出て、勝者史観に自然科学の裏付けがあるかのように進化論が利用(悪用)されるのはもっとあとのことで、明治時代に文明開化を擁護する思想に影響を与えたのは、むしろホイッグ史観であろう、という指摘があるらしい。
(3) 「NOと言える」日本経済
だが、言葉としての「進歩史観」は、1980年代以後のメイド・イン・ジャパンな保守論壇用語の色が付きすぎているように思う。
「イエ社会/新中間大衆/開発主義」の村上泰亮とか、
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「つくる会」にもご参加でいらっしゃったらしい澤田昭夫とか……。
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これは、ぶっちゃけ、日本経済が好調だったもんだから、調子に乗って「もうこれ以上の進歩は要らない」と我が世の春を謳歌している以上のエピソードではないと思う。
(4) 政策科学としての社会科学
そして「啓蒙と進歩」ではコンドルセの本が岩波文庫に入っているが、
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数学(確率論)と社会調査(統計)、歴史哲学と啓蒙(公教育)が絡み合って「政策科学」が成立する経緯は、かなり大きな話になってしまうようだ。
科学アカデミーと「有用な科学」 -フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ-
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音楽史においても、「音楽の起源」から説き起こす上記(1)のタイプの人類学的発展段階論と、古代/古典/ロマン主義というヘーゲル風歴史哲学と、19世紀末から今日に至る様式史、これらの複雑な関係を解きほぐすプロジェクトは、もはや「思想史的方法」の適用外に広がると思うし、事実、概念史という形で既にいくつか個別研究があります。
コンドルセを「進歩主義 progressivism」と呼ぶだけでは何も解決しないように、音楽史に「進歩史観」なるバズ・ワードを導入すると、むしろ混乱するように思う。