サントリー音楽財団コンサートTRANSMUSIC 2008 対話する作曲家 望月京×岩村原太(いずみホール)

若手作曲家が他ジャンルのアーチストを指名してコラボレーションするシリーズの6回目。昨年が江村哲二さんと茂木健一郎氏で、江村さんはこの演奏会の直後に亡くなったので間もなく一周忌ということになるのですね。

演奏についての感想は批評を書くことになっているので省略します。

前半の岡田暁生さん司会によるトークで、「2000年頃から日本で女性の作曲家が当たり前に活躍するようになってきましたね」といった話題があったので、そのことについて思いついたことと、若干のデータ的なことについて。
「最近の女性作曲家の活躍」ということで、トークの中で具体的に紹介されていたのは、芥川作曲賞の受賞者のことでした。1999年の菱沼尚子さんから2007年までの受賞者は8人中6人が女性である、と。望月さんも2000年の同賞受賞者ですね。

http://www.suntory.co.jp/culture/smf/akutagawa/index.html

「女性作曲家の活躍」について、望月さんご自身は「女性であることが不利だと感じたことはまったくなくて、むしろ、女性であるがゆえに得をしたと感じることはある」と答えていらっしゃいました。(逆にそれならどういうところで「得をした」と感じられたのか、私はちょっと興味を惹かれましたが、トークでは残念ながらそこはスルーされてしまいました。残念。)

女性作曲家、ということで私が思い出すのは、晩年の岩城宏之さんの京都でのお仕事です。京響の2002年4月定期では、山口恭子さんの「だるまさんがころんだ」、一ノ瀬トニカさんの「美しかったすべてを花びらに埋めつくして…」の2曲が「悲愴」の前に演奏されて、一ノ瀬作品のソリストもフルートの高木綾子さんだったので、ステージ上では、岩城さんの周りに若い女性ばかりが並んで拍手を受ける形になっていました。(今調べてみたら、この月のアンサンブル金沢でもこの2曲を紹介したようですね。)

最晩年にかつての盟友、武満、黛作品を取り上げるようになる少し前、2000年代はじめに、岩城さんは、「自分以外、全員女性」というプログラムを(おそらくかなり意識的に)組んでいた時期があったような印象があります。芥川賞受賞者を見ていると、その時期ともシンクロしているように思えますね。偶然なのか、そうではないのか、わかりませんが……。

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岡田暁生さんが今回の演奏会プログラムに寄稿した文章に望月さんの作品は「これまで関西で演奏されたことはほとんどないようだ」と書かれていて、トークでは、やや譲って「関西で作曲者立ち会いでの演奏は今回が初めて」という言い方をしていらっしゃいましたが……、

岩城さんは、実は京響で望月さんの作品も取り上げています。

2003年7月の定期です。このときは前半が武満徹「リヴァラン」(ピアノ:木村かをり)と望月京「メテオリット」。後半がラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲(合唱付き)。

灯台もと暗しと言うべきなのでしょうか。岡田さんのお膝元、京都北山で既に望月作品は上演・紹介されていたのですね。(この演奏会は私も聴きました。)

当時、岩城さんは半年に1回のペースで京響定期を指揮していて(京響首席客演指揮者でした)、望月作品を演奏した2007年7月の次の出演は2004年1月。岡田さんはこの演奏会を「朝日新聞」の音楽評で取り上げていらっしゃったので(京響を力強く絶賛する批評だったので印象に残っています)、本当に惜しいニアミスで、岡田さんは望月さんを聞き逃されたようですね。

(ちなみに、2004年1月定期はブラームスのヴァイオリン協奏曲と「火の鳥」。この時の独奏は川久保賜紀さん。やはりステージ上の「岩城さん以外、みんな女性」の原則が踏襲されたようです。私はこの演奏会は聴いていません。)

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望月さんの作品としては、他には無伴奏ヴァイオリンの「パ・サージュ」を堀米ゆず子さんが京都府民ホール・アルティのリサイタルで2006年に取り上げています。(9月26日。この4日前9/22の東京公演が「パ・サージュ」の初演。これは実況録音がCD化されています。)

堀米ゆず子 ヴァイオリン・ワークス1 音楽の旅-叙情を求めて

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私は、いわゆる現代音楽、新作を専門に追いかけている人間ではありませんし、実際、TRANSMUSICシリーズのこれまでの作曲家の作品は、そこで聴くのが始めてである場合がほとんどでした。今回は珍しく「聴いたことのある人」だったので、「これまで関西で演奏されたことはほとんどない」というのは実感と違うなあと思ってしまったのでした。

いずれにせよ、トークを聴いている感じだと、望月さんは、あまり「○○で初めて」、「未だかつてなかった××」ということを売りにするタイプではなさそうな感じがしました。この日の公演の「希少価値」をなんとか強調しようとする「自称マッチョ」の岡田さんと、それをさらっと流してしまう望月さんのミスマッチがトークの見どころだったかもしれませんね。