戦後の実験・前衛藝術関係で読みかけの本をいくつか

本当に時間がないのですが、一言メモしておきたかったので簡単に。

「具体」ってなんだ?―結成50周年の前衛美術グループ18年の記録

「具体」ってなんだ?―結成50周年の前衛美術グループ18年の記録

実は、関西の戦後前衛美術で有名な、そして主宰者の吉原治良が阪神間モダニズムでも言及される「具体美術協会」が、ほんの一瞬だけ大栗裕とニアミスしていたらしいことが最近判明しました。詳細はいずれまとめます。

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そしてもうひとつ、一回落第した科目を再履修しているような、心機一転の気持ちで少しずつ読んでいる本です。

日本の電子音楽

日本の電子音楽

『日本の電子音楽』は、前に購入して、NHKなどの実験音楽に特化しているのは少々残念、と即断してしまいそのままになっていたのですが、落ち着いて読んだら、驚異的に精密な記述に驚嘆してしまいました。

とりあえず読んだのは、関西関係。

関西は狭い(みんなが知り合いの「大きな田舎」)と言われますが、「具体」の嶋本昭三のインタビューと、関西時代に松下眞一の盟友的な位置にいた上野晃インタビューが相互への参照なしに並んでいます。同じ時代に同じ大阪にいたのに、接点がなかったということでしょうか。美術と音楽の前衛は、「実験工房」のように共闘していたとは限らないのですね。

ドキュメント 実験工房 2010

ドキュメント 実験工房 2010

  • 作者: 大谷省吾,大日方欣一,山口勝弘,東京パブリッシングハウス,西澤晴美
  • 出版社/メーカー: 東京パブリッシングハウス
  • 発売日: 2010/11/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あと、ちゃんと最初から読んでみて遭遇したのが石塚潤一さんのレクチャー。(まだ本当に最初のほうしか読めていないのです)。いままで音響物理の概説を読んだり、電子音楽への論評をいくら読んでも、話がどこかで断線してつながっていない感じがつきまとっていて、これでようやく物理と聴覚心理と音楽、電気工学とオーディオ技術等々の回路がきれいにつながった気がしました。

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NHKラボを中心とする日本の電子音楽の主要作品は、NHK退職後に塩谷宏が教えていた大阪芸大音楽工学研究室から、「音の始源を求めて」シリーズとしてCD化されていて、HMVオンラインでも購入できるんですね。

(大芸音楽工学出身者の知人が音楽学関係にもコンピュータ関係にも複数いますが、そんな歴戦の猛者な方々が教えていたとは知らなかったです、認識不足が恥ずかしい。そういえば、知人の顔ぶれを思い出すと、卒論でダ・ヴィンチをやっていた人とか、シェーンベルクを勉強するからと単身ドイツへ留学して現地通訳になった人とか、卒業制作で機械を作ってそのまま家電系列会社のプログラマになったりとか、それぞれとんがった面白い人たちだった、と今更ながら思っております。)

いわゆる「複製技術」のアートは、映画でも写真でも、被写体ではなく、機械を駆使して「撮る人」(写真家や映画監督)に焦点が当たっていますし、映画のヌーヴェル・ヴァーグは「作家主義」を標榜して、物語と俳優への関心の影で注目されてこなかったハリウッド「B級映画」監督を称揚する批評からはじまったそうですから、

ハリウッド映画史講義―翳りの歴史のために (リュミエール叢書 (16))

ハリウッド映画史講義―翳りの歴史のために (リュミエール叢書 (16))

「B級映画」という言葉を低予算二流映画を指す普通名詞のように安易に使っている人は、一度本書を読んでおくべき。音楽関係の人には(映画の音楽がさかんに語られるようになっているのに)あまり参照されていないようですが、「B級映画」の語の使い方で、書き手の映画史の素養があっけなくバレる。そういうイジワルを仕掛けた本。

テープの録音・編集によるいわゆる「電子音楽」も、作曲家ではなく、技術者に着目してこそ真の歴史に目覚めるのではなかろうか。そういう意味でも、「音の始源を求めて」シリーズは挑発的ですね。