「世界の趨勢」という善意の助言をめぐって

発言の当事者に何ら悪意がないであろうことを100%認めたうえで、敢えて書く。

第1段階:○○の主催するイベントについて、「中央」から来た善意の第三者が「世界の趨勢は××なのに、いまだにこんなことをしているのはどうしたことか」との意見を呟く。

第2段階:浮き足だった○○はあちこちに問い合わせて、どうやらエージェントXがノウハウを供与してくれるらしいことがわかり交渉を始める。

第3段階:エージェントXが、「わたしたちのモットーは共存共栄ですから」と言って、格安の好条件でミニマム・セットを提供する。

第4段階:数年後、○○はプロジェクトをアップグレードしたいと考えて、今度はこちらから一層踏み込んだ提携を持ちかける。

第5段階:さらに数年後、気がつけば○○の運営は、事実上すべてエージェントXが取り仕切る状態になっている。

まあ、世の中には、こういうのが、い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぱいあるわけですよね。公共事業もソフトバンクも、「地域」へ食い込むときに、小さく始めて大きく育てる手法はいっしょ。

(この週末は、「そういうのにひっかかるところがあるのは嘆かわしいね」という意味の意見をコンサートのロビーで複数の人から聞いた。あそことあの人が、今、関西を狙い時と考えてる感じがあるね、という共通認識があるようだ。捨てた故郷をどうにかしたいあそこと、オレの時代が来た、と思ってるあの人。そのあたりに振り回されずにペースを作れるベテランの力がこの先しばらくは求められる情勢なのかもしれませんな。)

で、関西が面白いのは、100年ちょっと前までは自分たちが「エージェントX」みたいのを各地へ送り込む側だったので(たとえば道頓堀の人形浄瑠璃興行が下火になった江戸末期には、全国各地に大夫や人形遣いが流れて各地に芸を伝えたことが知られている)、なにげに、「あれまあ、仕掛けて来たよw」と察知して上手にハンドリングするノウハウがあるとされてきたところかな、と私には思われます。

歴史を振り返れば、「大阪はもう弱っている、青色吐息だ」という観測自体が過去百数十年で何度となく言われて、でも、騒ぎが一段落してみれば、それは結局、「そろそろ弱ってくれて、こっちのいいなりになってくれたらいいのになあ」という願望にすぎなかったことがわかったりする。

(そのうえ、「大阪を救え」の掛け声で出てくる提案が道頓堀プールだったりするから大いにシラケる。)

まあ、大阪自体はおっちょこちょいで、常に崖っぷちをフラフラしているわけですが、もともとが海に面した崖の上の台地にできた街ですし、それが生き残っているのは、おそらく、川の上流に、京都という、こういう難儀な誘惑のいなし方については百戦錬磨で国内随一である都市があって、ほんとうにヤバいときには、そっちを頼りにすればどうにかなる、と思っているからなのかもしれませんね。

別に「大阪は弱って」なくて、昔っから、多少の浮き沈みはあっても、だいたいこんなもんでしょう。

だが、大阪交響楽団の楽団員やスタッフに悲壮感はない。というのもこの楽団、成り立ちから常に“前向き”だったのだ。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/131012/wlf13101218000021-n2.htm

音楽というのは、大きく儲けるのが難しいかわりにスキルさえ事前に身につけておけば(←ここが一番大変だけれども、それはまた別の話)、参入障壁が低くて、低空飛行でよければかなりしぶといことが知られています。

ポピュラー音楽をつくる―ミュージシャン・創造性・制度

ポピュラー音楽をつくる―ミュージシャン・創造性・制度

音楽産業は、独占巨大資本向きの映画とは、産業構造が根本的に違うのではないか、という指摘が本書にはある。

「世界の趨勢」であるところの昨今の演出術というやつも、そのスタイルの土台にあるのは、様式美を排した19世紀末のリアリズムの演技論にせよ、殺風景な空間で、裸一貫、最低限のモノとヒトのアンサンブルから演劇を再構築する20世紀後半の演出の劇場にせよ、問われていたのは、「しぶとい低空飛行」を続けるためにはどうするか、ということだったはず。「正しさ」とか「時代の進歩」とかという要請は、たとえ善意で言われた言葉だったとしても、副作用が強すぎると私は思います。「正しさ」や「進歩」を売ってやるから金を出せ、という脅迫には屈しないぞ! ……まあ、殺されたら困るから金はしぶしぶ出すかもしらんが、心は売らない(笑)。

闘いなき戦い―ドイツにおける二つの独裁下での早すぎる自伝

闘いなき戦い―ドイツにおける二つの独裁下での早すぎる自伝

  • 作者: ハイナーミュラー,Heiner M¨uller,谷川道子,石田雄一,本田雅也,一條亮子
  • 出版社/メーカー: 未来社
  • 発売日: 1993/08
  • メディア: 単行本
  • クリック: 5回
  • この商品を含むブログ (2件) を見る
ドイツの劇場人はしばしばこの人に言及しますが、実際に観ていないと何もいえないところが、演劇は初学者に辛い。