「お隣に大きなお屋敷があってね」

「……そのおうちは、ちょっと変わった人たちが住んでいて、でも、その人たちは町を守ってくれていて、とてもいい人たちなの。カタギの人たちにはとても親切な、いい人たちなのね。でも、そこのワンちゃんが……。ワンちゃんは番犬の役目をしていて、とっても恐いのよ……」

そんな話を帰り道に横の学生がしているのが偶然耳に入り、エレガントで滑らかな口調、言葉が何のこわばりもなく自然に選ばれている聡明な話しぶりに、わたくしは心洗われる思いだったのでございます。どのあたりにお住まいなのか、おおよそ見当がつきますよね。

学者として「神戸芸能社とわたし」に思いを馳せる作業は、あなたが週一回出講している教室にも、そのようなお嬢さんがおそらくいらっしゃるであろうし、それは何ら不思議なことではない、というところから出発すると、新たな展開が見えてくるのではないでしょうか。

科学研究費を認可されなかったとしても、お隣の奥様と挨拶を交わすことに支障はなさそうですから……。

「今度、父が向かいの土地にマンションを建てると言っているのですけれど、先生、お入りになりませんか?」(←これは、作文にオチをつけるための修辞、フィクションであり、実在の個人・団体とは関係ありません。)