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どういう巡り合わせか、最近「刑事コロンボ」が人生で何度目かのマイブームなのですが……、
必ずしもそれほど印象的ではない劇中の音楽が、妙に耳に残るんですよね。
(使い回している曲もあれば、毎回特注の曲もあるみたい。細かく調べたわけではないけれど……、と検索したら、案の定、ウィキペディアにはBGM担当作曲家がリストアップされていますね。)
本編のBGMを担当した作曲家を記述。( )は担当エピソード番号(第14話はクレジットなし)。
刑事コロンボ - Wikipedia
で、ああそうかと思ったのは、犯人さんが殺人やアリバイ作りをするときは、他人に知られないように隠密行動ですから、基本的に無言なんですよね。しかも、できるだけ余計な物音を立てないように努力する。
そうすると、ほとんど音のない状態になって、「絵」としてはそれでハラハラ・ドキドキのサスペンスになってちょうどいいのだけれども、テレビ放送としてはおそらくあまりよろしくなさそう。(音声が途切れた事故かと思われかねない感じに間が保たなそうだし……。)
だからここで音楽の出番、なんでしょうね。
で、犯人さんは、イタリア移民のしょぼくれたコロンボとの対比で、社会的な地位の高いインテリの知能犯なのが売りだから、罪を犯すときに易々と感情が揺れ動いたりしないので、音楽も、情感豊かなもの(歌姫トスカがスカルピアを衝動的に殺してしまう場面みたいな)では困る。
無調っぽいシンプルなパッセージを淡々と繰り返すことが多いのは、そのあたりの事情を換算した結果なのでしょう。
(ショパンの別れの曲をフィーチャーした「2枚のドガの絵」でも、犯罪シーンのBGMとしてパラフレーズされるのは中間部の減和音が半音スライドするメカニカルな箇所だったりする。犯人は現代絵画の評論家という設定ですから、抽象的な音のほうがいいのでしょう。ウィキペディアによると、これを担当したビリー・ゴールデンバーグが次の「もう一つの鍵」でエミー賞ノミネートなんですね。)
犯罪ドラマの音楽をこういう感じに作るのは、やっぱり、映画に先例というか、ジャンルの蓄積・伝統のようなものがあるのだろうか。映画におけるクールなメロドラマ、クールな無言劇の系譜。
(追記:半可通で的外れな連想かもしれませんが、歌舞伎の暗闘(だんまり)と、ちょっと似ているようにも思う。)
さらに遡って、岡田暁生だったら「ロマン主義の反動の感情欠乏症」と形容しそうな音楽劇が20世紀に出てきたわけだから、そこと犯罪もののクールなメロドラマがつながっていたり、その流れに無調やアヴァンギャルドが絡んでいたりすると、それなりに面白そうなテーマになる気がしないでもない。
(犯罪のBGMが、ベルクのヴォツェックやルルのように音楽上のクライマックスになってしまわなくなったのはいつからなのか? 漠然と、それは音楽におけるフィルム・ノワールなのかも、と思うのですが、知識が乏しいのでそれ以上は今はわからない。)