モノを作る会社と情報・サービス・流通の会社

さっき気がついたのだが、企業メセナ(←やや古い概念)といっても、母体の企業の職種は色々ある。

文化財団的なものを作って芸術に参入した早い例としては新聞社があって、その流れて放送局も色々やっているし、企業メセナという言葉がさかんに使われていた頃には保険・金融の会社の事業が目立ったような気がする。そういう関係の音楽ホールも色々出来た。

セゾン文化みたいな言葉があったせいもあって、こんな感じに情報・サービス・流通の会社、モノづくりという近代日本っぽい職種ではなく、「第三の波」だったり「情報社会」だったり「金融資本主義」だったりという、「その次の時代」っぽい雰囲気の会社が、金儲けだけでなく文化・芸術もやるのであって、それがメセナだ、みたいな感じだったのかなあ、という気がしないでもない。(あくまでいいかげんな印象論だけれど。)

そのなかで、SONYという家電の会社で、会社がどこまで関与したのかよく知らないけれども大賀さんが音楽好きであれこれやったり、サントリーというお酒の会社が音楽財団、今は芸術財団としてホールや美術館をもっていたり、ロームという半導体の会社が、来年は自分の会社の名前を付けて京都の公共ホールがリニューアルオープンすることなったりしているのは、モノを作る会社の文化・芸術事業で、案外それは、異色なことだったりするのかなあ、と思ったりもする。

スポーツは、バレーボールでも野球でもサッカーでも、モノを作る会社がやるのは(「ルーズベルト・ゲーム」というドラマもそんな設定だったし)珍しくないけれど……、クラシック音楽では、少なくとも今はあまり日本で数はなさそうですよね。表に出ていないだけかもしれないけれど……。

で、何が言いたいかというと、

モノを作る会社、作れる会社が、事例は少ないかもしれないけれども、本気で文化・芸術をやる、人を育てて、文化・芸術を「作れる」ところまで持っていくぞと本腰を入れると、結構強いのかもしれないなあ、と思ったりしたのですよ。

情報の仕事は、エントロピーという概念がそうであるように、モノならざる価値が流通するときに生ずるモノとは異なる様々な特性を扱うのが得意だったりするようだし、金融の話は、これがあるから経済が独自の「学」になり得るキモのひとつだったりするようだし、保険というのは、確率の話なんですよね。

今ここにあるモノ(資材)を今ここにいるヒトがどうにかして結果を出す、みたいなのとは違う視点と発想があるところが、それぞれの職種の「新しい」(新しかった)ところなのだと思うのだけれども、自前で文化・芸術を作る(作れ)となったときには、また話が違ってくるのかもしれない。そこへ踏み込むのはウチの仕事じゃない、みたいな……。

その意味で、これからは文化・芸術を作る事業、そのインフラも「民間」でなんとかしてください、「本気」を見せたところにはちゃんと援助をしますから、という風な話は、今は行政がそっちへ舵を切っているらしいと伝え聞くわけだけれども、結構キツイ踏み絵なのかもしれないなあ、と思ったりするのです。

ほんまにそういうことができる体制と人員を、「民間」が整えることができるんやろか。

今はまだ、「どうせ一過性の嵐なんちゃうの」という感じで、なんとなくやり過ごす以上のことはやらないし、できませんわ、というところが結構あったりするんじゃないのかなあ。

東京は、まあ色々ありそうだし、京都にはロームみたいのがあるけど、大阪は……、鉄道や新聞が文化・芸術をもり立てていた大正・昭和の昔から、モノを作らない人たちが主な支援者で、実際に「作る」ノウハウは、音楽家と音楽団体が持っている形でずっと来ているような気がする。

これからは企業が文化・芸術を作ります、実演者の皆さんは、私たちの言うとおり従ってください、みたいなことになったら、そら、相当揉めそうだし、失うものも大きいと思うんやけどなあ……。

まして、「あんたら、ほんまにモノを作ったことあるんかいな」みたいな言い合いになると、溝は深まりそうですなあ。

器用に時流に乗ってるだけでは、使いツブされてすぐダメになるし、だいいち、お客さんもそんなんはバカにして、まともに相手にしてくれませんよ。自分の軸を持っとかなアカン、というのは、芸人からアーチストまで、大阪にいたら普通に身についてることなんちゃうかなあ、と思いますわ。環境がそういう風になってるんやから。それを別のとこから来たリクツで押しつぶそうとしても、それは無理筋やと思いますわ。

他所から来たアーチストへの評価だって、そういう風になってるでしょ。他所での評判がどうであれ、聴いてみたら何か持ってる人みたいやから、それなら本気でつきあったろう、という風になってると思いますよ。主催者や呼び屋の思惑とたまたまそれが合致したり、しなかったりすることはあるやろうけど。