父親問題

コンヴィチュニーと平田オリザと沼尻竜典の3人が並んでいるのをみると、10年くらい前に「読み替え演出は是か非か?」とやっていたのは牧歌的な光景だったのだなあ、と思うと同時に、オペラを劇場で実際に切り盛りしていこうとすると露わになってくるアレコレのややこしさは、10年や20年でそれほど劇的に変わるものでもなさそうだなあ、とも思う。

で、与えられた「お題」へのそれぞれのレスポンスは、議論を深めるというよりも、それぞれの「立ち位置」がどうなっているのか、ということを衆人環視の場で確認する共同記者会見みたいなものになるのは、そういう形でいわゆる「メディア対応」が整備されている当節のニッポンの状況では、まあ、そういうことでしょうか。

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昼間の稽古でいよいよジェルモンが登場して、でも、その周りにいるアンニーナとかジョルジュとか、普通はその名前すら記憶に残らない人たちのキャラが鮮明になって、ああ、やっぱりコンヴィチュニーはこうでなくっちゃ、と、こちらが嬉しくなっているところに、パパ・ジェルモンのDVが始まる。

コンヴィチュニー自身は、指揮者のパパとどういう関係だったのか、トラヴィアータをやるというので、今回はそれがものすごく気になっているのですが、

夜の公開討論会では、平田オリザと沼尻竜典が「オペラって演劇としてオカシイよね」と言い出して、座が内輪話風のぶっちゃけトークに流れかけたところで、コンヴィチュニーが両親の話を持ち出す形になりましたね。

「私はオペラを壊すつもりはなく、オペラのために闘っているんです」とアピールするときに、彼の出自は強力な保険・担保になるわけだけれど、その先が知りたいんだよなあ……。のぞき見趣味で、無遠慮に立ち入っていい話じゃないのは重々承知しておりますが……。

でも、世間の「パパ」なる存在の正体を露わにしながら、残り少ない余生を彼女がどのように過ごすのか、というお話としてこのオペラを作っていこうとしているわけだから、どうしても、気になってしまいますよねえ……。「オペラの未来」を問われても、答えが普通の意味での未来についての話にはなっていかないような、意外にややこしい生き方をしている人であるわけだし……。