「ソ、ソ、ソークラテス」

ラテン文学を読む――ウェルギリウスとホラーティウス (岩波セミナーブックス S14)

ラテン文学を読む――ウェルギリウスとホラーティウス (岩波セミナーブックス S14)

ギリシャ、ラテン語の名前に音引き(ー)を使って、長母音・短母音の違いをうるさく言うのは、韻文の定型の問題があるからだと思えばいいみたい。

アールマー ウィールムクエ カーノー トロイアエ クエ プリームス アブ オーリス

(で合っているのだろうか)

ラテン語のはなし―通読できるラテン語文法

ラテン語のはなし―通読できるラテン語文法

「古代ギリシャのシンポジウムは酒を酌み交わしながら詩を吟じ、哲学を論じたのだから、酒飲んで学会発表するのだ!」

という言い方があるけれど、人前に出す言葉の韻律を整えなければならない文明は、つぶやき140文字の縛りよりずっとキツいと思われ、肉体労働を奴隷に任せて、一日中、頭ばっかり使うくらいでないとやっていけなかったのかもしれぬ。古代ポリスの賢者の理念は、たぶん相当面倒くさい。(現代のポリス=警察の面倒くささといい勝負だったかもしれぬ(笑)。)

逸身先生は、ギリシャ語に比べてラテン語で六脚格に単語を並べるのは大変だ、としきりに書いており、そんなギリシャ文芸をヘレニズム(例のアレクサンドリアの「図書館」ムーセイオン)経由でパクって、帝国に箔を付けようとするローマの苦労が偲ばれる。

古代ギリシャ・ローマの文学―韻文の系譜 (放送大学教材)

古代ギリシャ・ローマの文学―韻文の系譜 (放送大学教材)

パクる側のローマには、それはそれで知恵と技術が必要だったのだ、という視点でギリシャとの関係をぶっちゃけて説明してくれるので、逸身先生の説明はわかりやすい。ヴェルギリウスとかホラチウスとか、ラテン語文芸を「創った」人たちはローマのオクタヴィアヌスの御用学者だったと考えればいいんですね。「パクリ」とか「御用学者」とか、起源の捏造(トロイ戦争の英雄がローマの始祖!)とか、なるほどローマ帝国の話には今時のニッポンで好まれそうな要素がある。

[支配者は、芸能・風俗に直接手を付けるようなことはせぬ。「言葉の支配者」が強いのじゃ。ワッ、ハッ、ハッ! 佐村河内/新垣の件も同じことであって、あのときだれがその「言論」を握っていたのか、音楽家当人ではもちろんない。]

アレクサンドリア [DVD]

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で、そのあとローマはキリスト教もちゃっかり公認・包摂しちゃって、アレクサンドリアのヒュパティアが大変なことになるわけか。

野坂昭如が哲学者の名前をずらずら並べて、「みーんな悩んで大きくなった!」と締めるお酒のCMが昔あったけれど、「ソ、ソ、ソークラテス」と最初のところは何気に長母音風でしたね。

最近の五月蝿い書き方だとソークラテースか。

さすがYouTube、こういう有名CMはすぐ見つかりますね。1976年のサントリー・ゴールドだったようです。2コーラス目で「ギョエテ」が出てくる。

アエネーイス (西洋古典叢書)

アエネーイス (西洋古典叢書)

パーセルやクレメンティの曲がある「ディドーとエネアス」の話の元ですね。

「オヴィディウスの変身物語」も、岩波文庫の散文ですらすら読めますけれど、オリジナルは韻文。

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

フランツ・リストは2月革命直前にパリからワイマールへ退却/転進して「古典的教養の人」になりましたが、ゲーテとシラーで交響詩や交響曲を書いたり、ローマ・カトリックの僧籍を得たり、ラプソディがホメロス以来のエピックを気取っていたわけだから、主題の絶えざるトランスフォーメーションというアイデアはオヴィディウスだったのかもしれませんなあ。