「男文字は怖い」

先日21日は午後からびわ湖ホールの小澤征爾塾で「子供と魔法」をみて、夜は大急ぎで移動して、兵庫芸文で「藤戸」。

藤戸公演はプレトーク30分、公演1時間という構成で、トークは聞き逃しましたが、公演には間に合った。

シンプルな舞台で、前半、佐佐木信綱が平家物語にもとづく合戦を回想するところは、「戦争」「平和」とか、武将たちの名前とか、背景のスクリーンに文字が映し出すアイデアが印象的で、

一方、ずっと聴いていると、この作品はひたすら語りが続いて、「うた」は、最後に、死んだ子供を弔う挽歌のようなものがひとつと、子守歌があるだけなんですね。

ここまできて、なるほど、「うた」は大和言葉で、子を殺されたお母さんの「声」として響く作りになっているのかと気付く。

で、お母さんが狂ったように子守歌を歌い始めると、信綱は悪霊退散という感じに経文を唱えて、そうすると、再びその文言がスクリーンに文字として映し出される。(「耳なし芳一」を連想させる場面かもしれない。)

終演後、演出の岩田さんに「男文字は怖い」とだけ言ったら、「正解です」とのお返事だったので、それで納得でございました。

ドラマの骨組みをくっきり見せるいい演出だったのではないでしょうか。

銃後の女性にとっては戦場の「男文字」の世界が恐ろしいわけですが、男たちにとっては、母の「うた」が恐ろしいから経文を唱えて抵抗しようとして、そこにドラマが成立する、と。

有吉佐和子の台本というか、そもそものこの題材がオペラというより反オペラになりかねないもので、作曲も、舞台劇というより語り物への付曲の印象があり、ややラジオドラマ風だと思いましたが、そういうところを含めて、日本のお客さんに伝わりやすいですね。