「白鳥の歌」と変ロ長調ソナタ

Schwanengesang/Piano Sonata D960

Schwanengesang/Piano Sonata D960

NMLで見つけたのだが、ゲルネのシューベルト歌曲プロジェクトの第6集、「白鳥の歌」でエッシェンバッハと共演しているアルバムがあった。

ずっと聴いていって、「鳩の使い」の最後、

Sie heißt die Sehnsucht! kennt ihr sie?

ここにくると、私のことですから、必ず泣いてしまうわけじゃないですか(笑)。Sehnsucht 憧れ、ですよ、彼女と文通する伝書鳩に、もう書くことがないから、ひとすじの涙ですよ、それを鳩はわかってくれる、ですよ、そして、これすなわち憧れであると彼は言う。しかも、あなた、いきなりこっちへ向き直って、「君たち、知ってるかい?」と、duzen で親しげに質問された日には、どうすればいいというのですか。

ザイドルがこんな詩を書いて、それにシューベルトがこんな風に作曲する彼らの集会は、いったいどうなっているのかと思ってしまうではないですか。ソーシャルなコミュニティとして、何かがはっきり壊れているじゃないですか。しかも、優しく微笑む長調で……。

「このような、涙を流しながらの微笑みをシューマンはイロニーと呼んだのです」と、フモレスケ(河村尚子が得意な曲)を論じた若き日の前田昭雄先生だったら言うのでしょうが、

この状況に、常人はアタフタするじゃないですか。

で、動揺収まらぬところに、ゲルネ/エッシェンバッハのアルバムでは、変ロ長調ソナタがはじまるんですね。

はまりすぎではないか。

(Taubenpost を Es-dur で歌っているので、B-dur への移行は何のギャップをまたぐこともなく滑らかだし……。)

演奏時間を考えると、実演では不可能かと思いますが、これは参った。