S/N比:信号の増幅

大所高所からの大学論はともかく、録音技術実習めいた日々が続いている。

オープンリール、カセットの次はLPレコードである。

これもほぼ忘れてしまっていましたが、Universal Serial Bus (USB) でなんでもつなげてしまえる今時のコンピュータのデジタル信号送受信環境と違って、レコードプレイヤーやスピーカーはアンプにつながないと使えない風に設計してあるわけですね。

アナログなオーディオ器機は、針が溝のデコボコを読み取った振動を電気信号に変える入り口のところは、極めて繊細微弱な電圧の変位を扱うことになるのだけれど、このままでは、ちょっとしたノイズの混入で信号がすぐに劣化してしまうから、アンプで一旦増幅してから電気回路や各種機材を通すことになっているわけですね。

それでS/N比という言葉が出てきたりする。

つまり、信号がノイズまみれになることを前提、所与の条件とした状態での記号・信号の送受信はいかにあるべきか、となったときの有力な解決策は、

中間の伝達経路で、多少のノイズがあっても負けないように信号を思い切り増幅しておけばいい

という発想だったわけですね。

この発想は、ドルビー・システムがノイズにまみれやすい帯域だけを一度増幅してしまう、というのとも似ているし、

これって、そのまま「マスの時代」の陰画じゃないですか。

メディアが情報を増幅して喧伝しておけば、発信源の信号・情報が微弱であっても、どうにか末端へ届くであろう、という話に他ならない。

「声がでかい」というのは、ノイズの発生が見込まれる環境では単なる相対量ではない特質かもしれないということだ。

デジタル化とか情報社会とかいうときに、技術が「進歩」したのだから、このように肉厚に増幅された「中間」(=媒体/流通/メディア)をすっとばして、発信源と末端を直結すればいいんじゃないか、というユートピアが構想されたわけだけれど、ほんまにそれで全部うまいこといくんかいな、というのが、このところの揺り戻しであると言えるだろうし、

だとしたら、

アナログ・オーディオ・システムは、やっぱり、「聴覚文化論」的に、結構大事なんとちゃうやろか。

(こういう話は、「アングロ・サクソン派」に乗るか否か、とは別件として、どんどん加速していいんじゃないかと思ったりする。)