陣羽織

過去の三谷映画の未公開場面集などから想像するに、台本には、実はどの回も、「あなた……腰つきが違います……ごめん、私の勘違いでした」に類する台詞が色々書き込まれているのではなかろうか。

今回は、どれも本筋と絡み合わさっているし、ゴールデンウィークの販促スペシャルな感じに面白シーンがたくさん採用されて、それで、斉藤由貴の「笑って、おられるそうです」が陽の目を見たのではないか、という気がする。あの場面、家康が入ってきた直後から、台詞がないところでも細かくリアクションの芝居をしていて、めちゃくちゃ気合いが入っていますよね。

陣羽織のくだりの、「丹田」から「芝居がどんどん難しくなっております」と来て、次の廊下の場面の「言っても誰にも信じてもらえないでしょう」まで、初見では大爆笑で、その勢いのまま喜んでおりましたが、見直すと、内野・家康と小日向・秀吉が、最後は真顔に戻って場面を収めているんですね。誰が台本を書いてもそれぞれに工夫したくなりそうなところで、定番オペラの名場面をいまどきの演出家が読み替えて作り込むのと、感触がよく似ている。

閲見本番に大泉洋の語りをかぶせるのも、飛び道具ですよねえ(内野聖陽はこれでOKなのか)。

「新撰組!」はタイトル前に導入の芝居があってナレーションを使わない作りだったけれど、今度はテーマ音楽ではじまる(あのヴァイオリンを聴きたくないので、ダイジェスト映像を編集して入れているスタッフさんには申し訳ないけれど、私は飛ばす)。そしてそのあとに字幕とナレーション(有働さんだったのですね)ですから、これを毎回書いているうちに、語りで遊ぶアイデアを思いついた、ということでしょうか。

今回の大河ドラマは、三谷幸喜にしては、映像ありきで作られている場面がかなり多い気がします。台本の段階からそうなっているのだとしたら、なんだかんだ言われながら映画を監督し続けたのが活きていることになるのでしょうか。