第25回(2004年度)音楽クリティック・クラブ賞

関西の音楽評論家の親睦団体、音楽クリティック・クラブが、年間を通して意欲的で実り豊かな活躍をした演奏家や音楽団体、あるいは作曲家、オペラ演出家などに贈らせていただいている、音楽クリティック・クラブ賞、今年は、以下のように決定しました。

●音楽クリティック・クラブ賞
大植英次(おおうえ えいじ)
釜洞祐子(かまほら ゆうこ)
韓カヤ(はん かや)
(順不同、50音順)

●贈賞理由

<大植英次>
大阪フィルハーモニー交響楽団第380回定期演奏会
2004年7月8、9日、ザ・シンフォニーホール

 2003年に大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任した大植英次は、前任者朝比奈隆が築いてきた重厚な音楽と、それにふさわしいオーケストラ・トーンを、いかに引き継ぐか、また、いかに変革させるかに注目が集まっていた。2004年7月8、9両日の第380回定期演奏会は、朝比奈の誕生日(9日)とあって「朝比奈隆生誕96周年記念」の副題がつけられた。しかも演目に、朝比奈が最も得意としていたブルックナーの交響曲第8番をとりあげたことに、大植は期するところがあったのであろう。
 そして、このねらいは見事に成功した。朝比奈の音楽とは、まるで異なるブルックナーを大植は築きあげた。テンポ設定からダイナミックスに至る「設計図」を、まさに大植独自のものに仕上げ、楽員も、それに全面協力した。新しい大阪フィルの誕生の瞬間でもあった。地域社会への積極的な奉仕活動をふくめ、大植は今、自分流の大フィル像実現に、大きな一歩を踏み出した。
(日下部吉彦)

<釜洞祐子>
モノオペラ「声」、2004年4月25日、イシハラホール
釜洞祐子プロデュース オペラ「春琴抄」、2004年6月5日、いずみホール

 プーランクのモノオペラ「人間の声」(4月25日、イシハラホール)における、電話相手との関係性の変化に応じた、いわば、究極の早変わりと言うべき、表情の切り替え。三木稔「春琴抄」(6月5日、いずみホール)における、春琴の少女から大人への成長、芸道への執念、そして、佐助の献身を悟った瞬間の変容。いずれも、作品への深い理解と、多彩な唱法を駆使した声のヴィルトゥオージティが両立する、聡明な歌唱であった。
 また、両公演は、限られた空間を最大限に活用して、中小規模のコンサートホールで内容の濃い音楽劇を成立させ、演奏会形式オペラの新たな可能性を開いたという意味でも、注目に値する。三木稔作品の大阪初演を実現した、プロデューサーとしての手腕にも、今後、大いに期待したい。
(白石知雄)

<韓カヤ>
韓カヤ ピアノリサイタル、2004年9月9日、いずみホール

 2004年9月9日にいずみホールで行われた「韓カヤ ピアノリサイタル」において、ブラームスの2つの間奏曲、シューベルトの遺作のハ短調ソナタ、シューマンの《謝肉祭》を、いずれも瞬発力の強くかつこの上なく明晰な彫りの深い響き、生命力あふれるリズム、豊かな高揚感を伴った巨匠的技巧と表出力をもって演奏し、聴衆に深い感銘を与えた。また韓国の若手作曲家、崔明薫の《ジャタカ》の日本初演を、打楽器の扱いを含めて効果豊かに実現し、現代音楽の伝達者としての力量をも十分に示した。カールスルーエ国立音楽大学教授としてドイツを拠点とする彼女であるが、関西をはじめ、今後の日本での活躍がますます楽しみである。
(根岸一美)