津国直樹バリトンリサイタル

バロックザール。「冬の旅」全曲。第1部は、各曲を丹念に描き分ける意欲的な演奏でした。最近の、言葉が声の色合いの変化でしかないかのような、いわば音楽主導のアプローチではなく、言葉(語り)を明瞭に伝えようとする姿勢に、好感を持ちました。特に、第1曲「おやすみ」(各節の歌い分け、ピアノと協力した「dunkel」「Liebe」といった語の際だたせ方etc.)、第5曲「菩提樹」(最終節の「回想」風の距離感の表現)。

ただ、第1部の密度の濃い演奏で、力を使い果たしたような感じもありました。第1部は、各曲の結びつきが比較的緩いので、第2部の、結末へ向かう緊張が高められるように、余力を残すべきだったかもしれません。

ピアノ(武知知子)が好演。「孤独」の重い足取りなど、ピアノが独自の軸として立ちはだかったことで、立体的な音楽になったように思います。あとは、「宿屋」、「幻の太陽」などで、オルガン風もしくは弦楽器風の深いレガートが欲しかった。