森悠子ヴァイオリンリサイタル

午後、京都文化芸術会館の「室内楽の会」。モーツァルト(ソナタK.301)、ベートーヴェン(ソナタ第1番)、フランク(イ長調ソナタ)を、それぞれの時代の弓で弾き分ける試み。モーツァルトの敏感なフレージング、ベートーヴェンの突進する勢いなど、前半2曲は、それぞれの音楽の特徴を生々しく体験させてくれる演奏でした。ただ、そうした様式の意識的再構成というスタンスから解き放たれたフランクが、いまひとつまとまらなかったのは残念。

ピアノ(船橋美穂)が、森のアプローチに全面的に協力して、モダン・ピアノでフォルテピアノ風の響きを作ったことで、演奏会の趣旨が明確になりました。とはいえ、船橋さんにとって、こうした試みはおそらく初めて。ピアノが完全にヴァイオリンと様式的に同一化したせいで、いわば、一人で演奏しているような、奇妙に人工的な印象(演奏自体はとても人間的です)を受けました。過去の様式感を踏まえつつ、演奏家としての主体性を失わないというのは、大変なことだとは思いますが。