トランスミュージック2007 江村哲二×茂木健一郎

午後、いずみホール。

この演奏会については、出演者お二人の個人ブログやこの演奏会の特設ブログで進捗状況が逐次公開されていましたし、お二人の対談が新書として出版されています。これだけ事前情報がたっぷり提供された公演は珍しいんじゃないでしょうか。舞台上での出来事以上に、事前情報の出し方が「実験」な公演ですね。

音楽を「考える」 (ちくまプリマー新書)

音楽を「考える」 (ちくまプリマー新書)

作品と演奏の感想は、後日、批評を書くことになっておりますので、申し訳ないのですがここには書きません。たくさんの関係者が動いた大きなイベントではあったと思いますので、その場に居合わせることのできた者として、以下、周辺的なことをいくつか。

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最初にトークコーナーがありましたが、今回は作曲の江村さんが進行しつつ、茂木さんをお迎えする対談形式。話を聞きながら、そういえばトランスミュージック初回の猿谷さんの回も、彼が進行する形式だったな、というのを思い出しました。企画の伊東信宏さんが出てくる回(昨年など)もあるし、今回のように出演者だけで進める回もあるし、そのあたりは臨機応変に、ということなのですね。

プログラムに記されたスケジュールでは、トークのあとにまず2曲(武満徹「ノスタルジア」、江村哲二「ハープ協奏曲」)を演奏してから休憩となっていたのですが、予定は変更になっていたようです。

45分くらいトークがあって(予定時間が知らされていないままだったので、心理的にやや長く感じてしまいました……)、トークの終わりぎわになってようやく、予定の変更、このあとすぐに休憩して、その後で新作初演を含めて3曲を続けてやる、ということが江村さんから告げられました。

(ステージ上で話をするというのは本当に難しいというのを、わたくしもここ数週間で痛感していますが、こういうのはトークの最初に言ってくれておいたほうが親切だったかもしれないなあ、という気はしました。「お前は、人前に立ったときに本当にそういう気遣いができているか?」と自分自身に跳ね返ってくることではありますが……。)

ということで、最終的なスケジュールは、前半がトーク。後半が演奏会(3曲)という構成になりました。

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後半の演奏会は、協奏曲的な作品が3つ。(武満徹のヴァイオリン独奏つきオーケストラ曲、江村さんのハープ協奏曲と、朗読&ヴァイオリン独奏つきのオーケストラ曲。)

トランスミュージック・シリーズとしては、実にオーソドックスな形態の演奏会だったように思います。

トークの中で、茂木さんはしきりに「曲の難しさ」(「一度聞いただけではわからないですよね」等々)に言及していて、なるほどこういう半ば無意識のお客さんへの気遣いが、内田樹氏の言う「おばさん」的トーク術の神髄なのかな、と思いましたが、

どうも、養老先生と鷲田先生と茂木さんと私の間にはある「共通点」があるように思われるのである。
それは何でしょう?
一分間考えてください。
・・・・・・・
はい、一分経過しました。
それは「おばさん」だということである。
[…中略…]
ふつうの知識人は「私は賢い」ということを前提とした上で、「その賢い私はこのように推論する」という記述のかたちを採用する。
それに対して、おばさん的知識人は、「私は自分がどのように賢いのか(あるいは愚鈍なのか)実はよくわかっていないので、それについて吟味するところからはじめたい」という記述のかたちを採るので、話はいきおい長くくどくぐるぐると循環するようになる。

コミュニケーション・プラットホーム (内田樹の研究室)

でも、今回の演奏会に関して言えば、オーケストラ・コンサートに慣れたお客さんや、トランスミュージックに毎年通っていらっしゃるような百戦錬磨(?)のお客さんにとっては、わりあい素直にお楽しみいただける内容だったんじゃないでしょうか。

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この演奏会は、茂木健一郎氏が英詩を作って、自ら舞台上で朗読するのが注目ポイント。江村さんによると、「茂木さんの声の良さ」を生かしたアイデアなのだそうです。

この「茂木さんの声」についての感想も、申し訳ないのですが批評に書きますので、ここには書けません。(決して出し惜しみしているわけではなくて、同じ話題を何通りにも書き分けて使い回せるだけの筆力が私にはないということです。ここで書いてしまうと、批評に書くことがなくなってしまうので、すみません。)

その代わりといっては何ですが、先ほど茂木さんのクオリア日記を見たら、演奏会後の打ち上げでのスピーチの音声ファイルが公開されていました。

『可能無限への頌詩』終了後のお祝いの会
音声ファイル
(MP3, 18.1 MB, 20分)

いやあ、みなさん、ありがとう。
ボクはさらに濃密で有機的な生を
いきるよ。

江村哲二さん、オメデトウ!

茂木健一郎 クオリア日記: 濃密で有機的な

ダウンロードして聞いてみて、ハープ協奏曲を弾いた篠崎和子さんのスピーチが、聴き手にまっすぐ届くような発声・話し方で強く印象に残りました。

録音はマイクを通した声ですし、肉声だとまた印象が違うかもしれません。それに、江村さんが茂木さんの声を「良い」と判断したような発声の質感(これって「クオリア」でしょうか??)とは別の話だとは思いますが……。

……ということで、持って回った話ばかりになりましたが、本日はここまで。

茂木さんから、将来、より大きなホールでの再演を目指してトレーニングをするぞ、という趣旨の発言も飛び出したようですので(上記音声ファイル参照)、一回限りのやりっ放しイベントではないということを踏まえて、何か今後のご参考にしていただける内容の批評をまとめることができれば、と思っています。