ハン・カヤ ピアノリサイタル、オーケストラ・ムジカ・チェレステ演奏会、大植英次・大フィルのベートーヴェン、宮下直子ピアノリサイタル

先週末から立て続けに中身の濃い演奏会が続いているのですが、今は全然時間がないので、とりあえず感想の概略をメモ的に書いておきます。

  • ハン・カヤ ピアノリサイタル、6/1(金)、京都府民ホール・アルティ
  • オーケストラ・ムジカ・チェレステ、6/2(土)、日野町町民会館わたむきホール虹
  • 大植英次・大フィル、ベートーヴェン交響曲全曲演奏会第1回、6/5(火)、ザ・シンフォニーホール
  • 宮下直子ピアノリサイタル(「木曜リサイタル」作曲家シリーズ、シューベルト)、6/7(木)、ムラマツリサイタルホール新大阪

以上4つの演奏会についてです。

      • -

ハン・カヤさんが帰国して大阪or京都で開くピアノリサイタルは、「今度は何を弾いてくれるのだろう」といつも心待ちにしている年一回のお楽しみ。時間がピタリと止まってしまう重い和音と、何があっても止まらないアレグロ、静と動に純化してしまった「悲愴」ソナタ(ベートーヴェン)からして、一見普通のようにみえて尋常ではない演奏でしたし、「アンダルシア幻想曲」(ファリャ)で、大事な音がくっきり浮き立つだけでなくて、影のように付随している複雑怪奇なうごめきまで全部弾いてしまう演奏能力はいったい何なんだろうと思わざるを得ませんでした。あとは、複数の波が重なりながら広がるユンヒ・パク・パーン「波紋」と、常に複数の出来事が並行して起こるブラームスの第3ソナタ。静と動とか、光と影とか、シンフォニックなポリフォニーとか、4曲とも複数性の対立がある音楽なんですね。ものすごく倫理的な演奏。

ムジカ・チェレステは、篠崎晴男さんの指揮で玉井菜採さん、高木和弘さんなどの若手が滋賀の山間の日野町に集まったオーケストこの演奏会については批評を書く予定になっています。

大植&大フィルのベートーヴェンの第1回(第1、2、3番)は、大植さんらしい、というか、大植さんが、音楽家としての「地金」のようなものを全部そのまま出そうと決心して取り組んだ演奏だったように思います。大植さん本気。それについていった大フィルの集中力も立派。ネット上で読める感想はおおむね好評のようですし、私もこのままどこまで行くのか見届けたい、と思っています。でも、会場でお話したご同業の方々の間では、不満げなご意見が優勢なようでした。音楽評論家「にだけ」不評というのは、ちょっと興味深い現象ですね。この点をもうちょっと書きたいところですが、とりあえず、ここはバイロイトではないので(笑)、周りが何を言おうと軌道修正しないでやりたいことをやり通して、考えるのは終わってから、というのがこのチクルスに関して良いのではないかと思います。

そして本日は、「木曜リサイタル」シューベルトの回。即興曲op.142とアルペジョーネ・ソナタ(ヴィオラ、廣狩亮)というこのシリーズでなければあり得ないだろう組み合わせ。柔らかくてふっくらした響きを崩すことなく、水面下でものすごくシビアなチャレンジが続いている集中した演奏で、弾き通した宮下さんは感動的。この、厳しいことを表に出さない(出せない)節度のようでもあり苦しさのようでもある感じがシューベルトなんですね。

来週の「木曜リサイタル」はラヴェルです。

シリーズ6ではラヴェルをお届けします。エスプリ溢れ色彩感豊かなラヴェルの魅力をソロは「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「クープランの墓」を、室内楽ではピアノトリオを息の合ったメンバーで取り組みます。パリで研鑽を積んだ中川美穂が魅せるラヴェルの世界にご期待下さい。

「木曜リサイタル」作曲家シリーズ