改めて大フィル6月定期の大植英次さん休演の件

先週の大フィル定期の「指揮者のいないブラームス」。忙しくて、考えをまとめる時間がなくてモヤモヤした感じが残っていたところに、毎日新聞の音楽担当記者さんから電話で取材がありまして、本日夕刊の「指揮者不在の大フィル公演」という記事に、コメント使っていただけたようです。

http://osakamaimedia.blog87.fc2.com/blog-entry-122.html

(ワタクシごときに取材が回ってきたのは、音楽関係者の大半が定期初日を聴いていて、二日目に行った人間が少なかったからだろうと思います。)

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でも、この話は難しいですね。

モヤモヤ感が残るのは、今回、大植英次さん自身の姿が見えない、声がなかなか伝わってこないせいかな、と思ったりします。

2月の大フィル定期が頸椎の不調で指揮者交替になった時は、キャンセルの理由もはっきりしていましたし、本番まで一週間あって心の整理をする時間があって、あとで大植英次さん自身からコメントも発表されていましたから、何がおきているのか納得することができた。

今回は、まだ大植さんの状況が不透明で、当日の様子も大フィルの発表を通して想像するしかないのが、もどかしい感じがどうしても残ってしまう……。

先日、6月14日・15日にザ・シンフォニーホールで行いました「第409回定期演奏会」におきまして、音楽監督の大植英次が演奏会直前に激しい目まいを訴え、2日とも指揮することが出来ませんでした。そのため急遽、前半のフォーレ/レクイエムを合唱指揮の三浦宣明の指揮で行い、後半のブラームス/交響曲 第4番は指揮者なしで演奏させて頂きました。
大植はその後、市内の病院へ検査入院しておりましたが、診断の結果、特に異常は無く、現在は症状も治まって退院し、17日にドイツへ移動いたしました。
この度は、お客様をはじめ関係各位に大変ご心配とご迷惑をお掛けしました事を改めてお詫び申し上げますとともに、今後共、大阪フィルに変わらぬご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

大阪フィルハーモニー交響楽団:お詫びとお知らせ

診断的には異常はなかったみたいですが、こういう形で出演キャンセルというのは、誰よりも大植英次自身にとって精神的なダメージが大きかったに違いないですし、それでも次のスケジュールとか、事後処理とか色々やらなければいけないとしたら、これは相当辛いだろうなあと思ってしまいます。

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こういうとき、「スキャンダルも芸のうち」と鍛えられている芸能人だったら、即座に本人の名前でコメントを発表したりして早急に不安感の収拾に動くのでしょうし、

企業でビジネスの倫理に通じている人から、「要するに会社の不祥事のようなものなのだから、音楽監督は責任者として出てきてきっちり責めを負うべき」という意見を耳にしたりもしました。

音楽のマネジメントの世界では、こういう時は誰がどういう風に考え、動くべきものなのか(今後の対応を含めて)一定のやり方というのがあるんだろうな、と思います。(ステージに出る人間である以上、体調管理は基本、「信用」が重要、心を鬼にして今後の対策を誰かが本人にきっちり伝えるべき、ということになるのでしょうか。)

ただ、そうなると、私たちみたいに日本の片隅、関西に張りついている人間には遠い話になってしまうなあ、と寂しい気もしてしまいます。

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国際的に活動するレベルの指揮者が、世界中を忙しく飛び回って数年ごとにポストを入れ替えながらステップアップしていくのが随分前から当たり前になっていて、そういうスタイルを前提にして演奏活動やマネジメントが回っているのはもちろん承知しておりますが、

でも、大フィルは、良くも悪くも創立から50年以上朝比奈さんひとりが切り盛りしてきて、二代目音楽監督の大植さんについても、この人だったらそういう「スゴロク」的なステップアップのサイクルとは違う形で、息の長い仕事をしてくれるんじゃないか、そうなってくれたらいいのに、という思いが関西には明らかにありますよね。

で、大植さんが新しい地域密着の企画を立ち上げてくれたり、大フィル60周年の今年は、(決して本人の得意レパートリーではないはずなのに)「勉強のつもりで」とベートーヴェン・チクルスに取り組みつつあったりする。

これはきっと、大植さんが大阪や大フィルを引っ張って変えていくだけではなくて、大植さん自身も、長く大フィルと一緒に仕事ができるように変わっていく気持ちを持ってくれているんじゃないか、そろそろ、そういう風に「長いおつきあいになる」と考えていいのかもしれない、少なくとも私はそう思い始めています。

(だから、大フィルのベートーヴェン・チクルスは、長い目で見た将来への投資みたいな企画であって、単純に個々の演奏の善し悪し、好き嫌い「だけ」では考えたくない気がしています。)

大植さんにとっても、大フィルにとっても、「2月に続いてまたキャンセル」ということで、ピンチなのは間違いなさそうですが、

あとで振り返った時に、このゴタゴタは、長い協力関係を作るための「産みの苦しみ」とポジティヴに考えることができるようになれば、良い方向にこれから先を持っていってくれるといいな、と思っております。

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……以上、大植さん大フィルキャンセル問題について、今現在の考えです。

先日、記者さんから取材をいただいたときにはここまで考えらなくて、記者さんには、二日目の演奏についての感想や、大フィルさんの当日の対応について気のついたことを二、三お話しました。

公演初日、フォーレ「レクイエム」後の休憩中に楽員さんたちがどうしていたのか、とか、その日の様子も具体的にわかるドキュメント記事ですね。