岡田暁生「恋愛哲学者モーツァルト」

恋愛哲学者モーツァルト (新潮選書)

恋愛哲学者モーツァルト (新潮選書)

感想は、梁山泊・京大人文研で醸造された文章だなあ、ということ。(「あとがき」にたくさんのご同僚への謝辞が連ねられているからそう思ったというよりも、例えばラ・フォル・ジュルネ(本書では「ラ・フォル・ジョルネーと表記されている……)という言葉を用いつつ、「この言葉の由来は……」というウンチクの身振りで「説明」する暇もなく先へ論を進めていって、言外にある種の読者・関心を振り切ってしまうところで、それを感じました。そういえば、人文研は、片山杜秀さんを「知識人」として歓待した機関でもあるのですよね。)

モーツァルトの少年時代について、ここまで生々しく書くか、と読んでいてドキドキする描写があって、そこにツェムリンスキーの「小人」が留めを刺す……。

本書のあとがきは2007年12月31日ですが、このくだりは、「こびと」@沼尻・びわ湖ホールの前に書かれたのか、後で書かれたのか、どちらにしても、「こびと」の解説をホールが岡田さんに依頼しなかったのは痛恨。と、本の裏側ばかりが気になってしまう下品な私は、本書の輝きの「県外」だと思うので、内容は皆さまそれぞれが読んでください。黙ってまず読むべき。そういう本。おこちゃま向きの内容ではなさそうですが……。