「音楽を考える2009 音楽と映像」(4) ポピュラー音楽、映画のなかの「私」

先週(=マイケル・ジャクソンが亡くなる前日)と今日(その一週間後)の授業のレジュメです。

レジュメだけ載せる安直なやり方では、あまり伝わらないと思いますし、このテーマは、社会学系の研究者・論客さまの層が厚い分野で、わたくしには、通り一遍の内容で表面をなでるようなことしかできません。手持ちのわずかな材料をやりくりして、謙遜でも何でもなく、おっさんの冷や水状態になっています。

最後は、「タイタニック」を観て、ディカプリオがケイト・ウィンスレットをひとりだけ救命ボートで脱出させようとして、でも、降りていくボートからディカプリオを見上げていると、こみあげるてくるものがあって、再び彼女はタイタニック号へ……、というシーンの音と音楽の使い方を検討。

文化史・社会史的な視野の広さよりも、そういったディテールの分析で、学生さんに、こんな見方もあることに気づいていただければと思っております。

「ここ感動のシーンなのでハンカチを用意して」という調子で音楽がはじまって、だんだんあたりの音が消えて音楽だけになって、ぐっと盛り上がったところで、ケイト・ウィンストレット動く、「ハイ、涙来た」、走る走る、ディカプリオも走る、抱き合う、音楽クライマックスから徐々に落ち着いて、「さあ、もう次に移るので涙を拭いて」……。

ほぼ「トゥルーマン・ショー」状態で、「感動」を音楽が制御しているのがわかる箇所なのですが、わかっていても、何度見直しても心が動いてしまうということは、「感動」を生理現象のようにして操作する術があるということなのかもしれません。90年代は、こういうのがたくさんある時代でしたね。

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[以下授業のレジュメ]

●ポピュラー音楽、映画のなかの「私」

MTV (Music Television) 1981年開設。ビデオクリップを24時間放送していた音楽専門チャンネル

Michel Jackson (1958-2009)

  • ♪Beat It (1982年のアルバム「Thriller」から翌年シングル発売)
  • ♪Thriller (映像監督:ジョン・ランディス、1984年シングル発売)

MTVで、ポピュラー音楽と映像(のなかの風俗)の結びつきが一目瞭然になる。それではポピュラー音楽と若者文化の結び付きは、どのように誕生・発展・変遷したか?

(1) 戦前:既製服以前の時代

♪「或る夜の出来事」(1934年、監督:F. キャプラ)

  • 家出娘も、新聞記者も当時の一般的な服装、髪型。「若者文化」はまだない。

(2) 1950年代:不良=ジャズ

♪理由なき反抗(1955年、監督:N. レイ)

  • 冒頭:真夜中の路上で泥酔したジェームズ・ディーンのバックにジャズ
  • ハイスクール学生のリーゼントと皮ジャン、自動車に箱乗り

(3) 1960年代:アメリカン・ニューシネマとポピュラー音楽

♪卒業(1967年、監督:M. ニコルズ)

  • 無気力青年の「心の中」で鳴り続けるサイモン&ガーファンクル(1964-1970)

アメリカン・ニューシネマ:1967年以後の独立系映画会社による低予算映画。ドラッグ、暴力、犯罪など、社会と若者の「本音」を映像化。

  • 物語から独立したBGM = 社会から独立(孤立?)した「私の音楽」
  • 既成服を着た主人公 = スターではない、観客の「仲間」

♪イージー・ライダー(1969年、監督:D. ホッパー)

  • 長髪、ハーレーのオートバイ + ロック(Born to be wild)
  • ロックは攻撃的・暴力的というよりも、開放的。無防備。安直とピュアが背中合わせ。

(4) 1980年代:消費社会とポピュラー音楽

♪プリティ・ウーマン(1990年、監督:G. マーシャル)

  • ジャズ・ピアノ=インテリの象徴(もはや若者の反抗音楽ではない)
  • Oh! Pretty Woman(1964)のリバイバル
    • 甘いファルセット + レトロでノリやすい8ビート
    • 誘惑の声と非日常の浮いたリズム(若者ショップのBGMの起源?)

(5) 1990年代:ウォークマン以後、「私だけの音楽」の時代

ウォークマン:1979年SONY発売の携帯カセット・プレイヤー。いつでもどこでも「私の音楽」を携帯する時代の到来

♪マトリックス(1999年、監督:ウォシャウスキー兄弟)

  • キアヌ・リーブス=ロック青年 vs 周囲の管理社会=フルオーケストラ
  • ベースとドラムにのせた戦闘シーン。
  • ロック=「私の音楽」と外界の音と、はたしてどちらがリアルなのか?

♪タイタニック(1997年、監督:G. キャメロン)

  • 貧しい画家ジャックと令嬢ローズ、その婚約者キャルの三角関係
  • 同じシーンを何度見ても泣けてしまう=音楽が涙を誘導する「感動のスイッチ」の役割

世界と私の関係の反転

  • 「風とともに去りぬ」タラのテーマ:世界(フルオーケストラ)が「私」を讃美する。
  • 「タイタニック」のテーマ:「私の音楽」が世界をくまなく埋め尽くす。