「大阪府さん今までどうもありがとう」(朝日放送「交響楽団は必需品かゼイタクか?札幌と大阪の文化行政の思想」)

関西の某ホール関係者の方から、以下のような情報をいただきました。
「ご無沙汰でございます。今夜の関西ローカル(朝日放送)のニュース番組内でこんなタイトルの特集が・・・。[……]」

関西圏の方限定情報:やくぺん先生うわの空:So-net blog

ABC朝日放送「ニュースゆう+」(16:50〜18:54)のようですね。原稿書きながら見ます。

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観ました。原稿〆切間際なので簡単に。

補助金増額と自治体の理解を得ている札響との対比で、向こうの市長さんや事務局の宮沢さんが出てきてそれと対比しつつ、という筋立てですが、センチュリー側は楽団の創立から20年間ご夫婦で団員という方への取材がメイン。(楽員さんの顔が見える報道は初めて?でしょうか。)ご自宅でお弟子さんをレッスンしたり、リビングで取材を受けたりの映像があるのですが、正直、「結構ちゃんとしたおうちに住んでいらっしゃる」というのが第一印象でした。(下世話な感想ですみません。)

一戸建てなのか、集合住宅なのかは不明ですが、ピアノを置いて自宅でゆったりレッスンができる空間を生活空間とは別に確保できているのだから立派なものですし、ローンを組んだのであれば、(音楽家なのに)ローンを組める信用がセンチュリー楽員にはあった、ということになるのかも。

楽員平均年齢は設立時27歳で、現在そのままスライドして平均年齢47歳という話も出ていて、つまり、一度はいると皆さん出ていかないということのようです。平均年収とかは知らないのですが、条件が良いというのは、楽員定着の一因でしょうし、安定した待遇で優秀なメンバーを集める(集めた)ということであろうかと思います。

「もう演奏できなくなるのか、と不安がある」とのコメントが使われていましたが(こういう発言を取り出す編集はニュース取材の文法優先という感じがします)、正直、この待遇に見合ったお力をお持ちであれば(おそらくお持ちなのに違いないでしょうし)、仕事がないわけがない、と思ってしまいました。

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何が言いたいかというと、嫉妬しているとか、やっかみとか、「甘えている」とかというのではなく、逆です。

センチュリー交響楽団は「大阪府さん今までどうもありがとう」キャンペーンをやるべきではないか、と思ったのです。

こんな素晴らしい環境を20年間与えてくれてありがとう!!! おかげでわたしたちは、こんなに立派な演奏ができる団体になりました!!! 感謝の気持ちを込めて、皆さん、この20年間の成果をお聞き下さい!!!

というようなメッセージを発信しつつ、次へつなげる、というのが、一番実情に合っている気がします。音楽というのは確かにお金がかかるかもしれないけれども、それだけの意味がある、というアピールにもなりますし、「助けてください」でもなく、お高くとまっているのでもない、結構ユニークな戦術になるんじゃないかと。

「知事にあれだけケチョンケチョンに言われて、なおかつポジティヴに感謝の言葉を返すなんて、やっぱり音楽は、とびきり心のきれいな選ばれた人の活動。保護すべし」と思ってくれる人がいるかもしれないですし。しょぼくれて「助けてください」と板に付いていない形で下手に出たり、交渉に達者なコワモテの感じの人が前に出るよりは、よっぽど音楽家の活動っぽい気がします。(「日本」センチュリーという名前に落ち着いた時点で、コワモテ全面対決路線の旗は降ろしたということなのだと思いますし。http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20100921/p1

知事さん側から手打ちで20億はあげます、と和解の先手を取られてしまって、それで終わりではもったいない。

札響の宮沢さんの「どこでサービス業だと気づくかが、生き残りの鍵」との発言が放送されていましたが(こういう厳しい第三者の意見を入れておくのも報道の文法っぽい)、浮き世ばなれと言われようとも変わらないおだやかな心(まるで上海へやってきた亡命ロシア人貴族のような)、というのは、逆に考えれば、余人をもって代え難い、貴重な「売り物」じゃないかと思いました。

奇しくも、放送で使われた先の定期演奏会のメインは「悲愴」でしたが、白系ロシア人は、ソ連にいられなくなったあと、そうやって「豊かな心」を歓待されて、世界にロシア・バレエやチャイコフスキーやラフマニノフを広めたわけですから。そしてさらに古いことを言えば、モーツァルトやチャールズ・バーニーを感嘆させたマンハイムの宮廷楽団は王様とともにのちにミュンヘンへ移って、リヒァルト・シュトラウスを生んだバイエルン歌劇場の礎となったのですから、音楽家に大移動はつきもの。(私は、センチュリーの未来像を想像しようとすると、どうしても、流浪のオーケストラを引き連れた近衛秀麿子爵の後半生と思い浮かべてしまいまして、それもまた人生、それを楽しめばいいのではないかと、無責任な他人事ではあるでしょうけれども、そう思ってしまいます。)

上海 - 多国籍都市の百年 (中公新書)

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近衛秀麿―日本のオーケストラをつくった男

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