田之倉稔『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』

モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯 (平凡社新書)

モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯 (平凡社新書)

これから読むところですが、モーツァルトの台本作家が晩年はアメリカに渡っていた、という大筋だけでもいかにも面白そうです。

サリエリは映画でよく知られるようになりましたし、シカネーダについても日本語の本が既にあり、古楽ブームのおかげで、クラリネットのシュタドラーなど友人音楽家のことも少しずつイメージが具体的になりつつあって、オペラは作曲家が一人で作るもんじゃない、舞台裏には舞台上と同じくらい濃密な人間模様がある、ということが見えてくるのは、とてもいいことのように思います。

個人的には、モーツァルトのマンハイム就職を阻んだ男。バッハのコラール和声法にいちゃもんをつけた博識のオルガニストにして、ウェーバーとマイヤベーアを育てた後期マンハイム楽派のブレイン、ゲオルク・フォーグラーを、愚かな悪役扱いでもいいから、誰か面白くまとめてくれないかなあ、と思っています。ワーグナーが手前勝手なイメージに塗り替え消去してしまった18〜19世紀ドイツ・オペラ界の実像を、私は知りたい!

当年50歳でサントリー学芸賞・吉田秀和賞・文部省芸術選奨新人賞受賞の偉大なる音楽学者・岡田暁生が、近著あとがきで「私に残されているであろう研究者としての人生はあまりに短い」とつぶやく御時世なのですから、今や研究者の人生の長さは紙くず同然の超インフレであるらしく(停年は戦後すぐの頃に比べたら随分延びているし、岡田暁生なら天下り先だって見つかるから、まだ先は随分あると思うんですけどねえ……)、凡人があと数十年生きながらえたとしても、そんな年月は無に等しいということであると思われますが、

しかしながら、

音楽に関して知りたいことは、まだた〜くさん残っているのですから、音楽学な人たちには、寝食を忘れ、身を粉にして働いていただかねばなりませぬ(笑)。膨大な負債・借金を残したままで、音楽学が勝手に「終焉」されては困ります。バブルに踊った放漫経営の銀行・金融業界じゃないんだから。

もちろん岡田暁生も、そう簡単にリタイアしてトンズラが許されるはずはなく、兵役に駆り出された第一次大戦中の知識人たちのように、前半生をたっぷり楽しんだ分、苦役の後半生を経験していただかなければなりますまい。

それこそが、喜劇・笑劇にふさわしい、どれほどワンパターンの紋切り型であっても、大衆がスカッと拍手喝采できる結末というものでありましょう。

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