コンピュータの「匠」

10年以上前にPDAにハマっていた頃、

(電子手帳が今のスマホへ進化する過渡期に、アップル社のニュートンとか、Personal Degital Assistant と呼ばれていた掌サイズのコンピュータがあったのです、「スタートレックの通信機みたいのが本当にあったらいいのに」という夢への挑戦と考えていただければ、世代的・時代的な文脈をご理解いただけるかと)

抜群に支持を集めるエンタメ系個人情報サイトがあって、のちに、そのサイトの管理人さんが、実は今も大活躍な放送作家さんだったことを知った。

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当時のPDAは、実用性で買うというより、可能性(この先にこんな世界が開けるはず、というヴィジョン)に投資するタイプの製品で、

それなりに小遣いはあるけど、おおっぴらに遊ぶ時間や自由のない多忙な中間管理職が、スケジュール管理に使う、仕事で使う、という名目を立てながら、同時に大人のオモチャとして遊ぶ、というノリだったように思われ、そんな感じの30〜40代が主なユーザだったようで、

そのサイト管理人さんも同世代(たぶん三谷幸喜とほぼ同年で、同じように東京の大学系劇団の出身)だったですが、その頃は、どうしてこういう番組をやっている人がこういうガジェットに肩入れするのか、その人の本職を知っている人たちの間でも、そういうつながりは意識していなかったような気がします。

「あのフジテレビの超有名番組をやってるんだったら、そりゃ本業が忙しいに違いない。寝る時間もなさそうなのに、どこかで無理矢理時間を作って個人サイトの運営にこれだけ情熱を傾けるのは凄い」

というくらいの認識。

でも、それから10年経ってながめておりますと、リフォームの匠をテレビ的にショウアップする、とか、知られざる職人を丁寧に紹介する、とか、そういう系統の番組があって、そこから遡ると、ああ、あの料理番組は「味の匠」がスタジアムで闘うショウだったのか、とか、ナンシー関が例外的にセンスが良いと評価したらしい別のあの番組のテロップは、お笑いの「匠の技」をエンパワーしたと考えたらいいのかな、とか思えてきた。(……という書き方であれば、先方にご迷惑にならない程度に、どれがどの番組の話なのかということはご了解いただけるはず。同様に高視聴率な、「最後の解答」に賞金ゲットの成否を賭けるあの番組のどこにどう「匠」がからむのか、は不明ですが……。)

結果論なのでしょうけれど、職人の技をエンタメ化するのが得意技、ということで来ているかのように見えてしまいます。

職人さんは仕事へのこだわりが凄いのだけれども、そういうのは「ビジネス」として価格に上乗せしちゃったりすることではないと思っているに違いなく、テレビがそういうところへズカズカ土足で入り込んで「知られざる名店」とかやっちゃうと心意気が台無しなので、でも絶対に素晴らしいことなので、だったらどうやって職人さんに寄り添うか、ということをずっとやっているのかもしれません。

(でも、だからといって「商売抜き」というのとも違う。)

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どうして急にこんなことを言い出したかというと、このブログ記事を読んで、コンピュータ将棋の「セミオート」という提案、コンピュータとヒトがどうつきあうか、というような発想に同じテイストを感じてしまったのでした。

http://d.hatena.ne.jp/essa/20130415/p1

きっとゲーム業界にもそういうところがあると思うのですが、機械を最強に強める方向性ではなく、人と機械の適材適所のスイートスポットを見つける「匠の技」というのが、コンピュータのエンジニアさんにもあると思うんですよね。

もちろん、学問にも馬力や組織力・最強に強まった知力だけではないところがあるし、音楽家が楽器を取り扱うやり方にもそういうところがある。

テレビのスタッフさんの心意気というのもそうだし、もっと言ってしまえば、芝居を作る舞台裏は、役者も台本書きも大道具さんも照明さんも、そういうのの集積なのかもしれません。

「ものづくり」と括ってしまうと、間違いではないのだけれども取り逃がしてしまう勘所があるような気がするんですよね。どうしてそういうポイントが気になってしまうのか、そこは上手く言語化できないのですけれど、ひょっとしたら、それは昭和のモーレツとも、バブルの終わりのない狂乱とも、ロスジェネな切迫感とも違う何かだったりするかもしれない。

ピアノ協奏曲の誕生 19世紀ヴィルトゥオーソ音楽史

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たとえば小岩さんの「ポスト・ベートーヴェンの時代」へ関心が行く感じは、なんかわかりすぎるくらいわかる、と思ってしまうんですよね。それは、乗り越えられてしまう弱さなのかもしれないのですが、別にそれでもいいと最初から思ってるというか……。