国威発揚と検閲と国民の自主性

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

天皇と接吻―アメリカ占領下の日本映画検閲

天皇と接吻―アメリカ占領下の日本映画検閲

上は、太平洋戦争中に米軍が「ジャップ」を「野蛮な猿だ」と擦り込み、大日本帝国が「鬼畜米英」を擦り込んだプロパガンダ合戦を対比的にまとめた本。下は日本の敗戦後に乗り込んできた占領軍の映画検閲の実際を米側資料から読み込んだ本。

続けて読んで、2つのことを思った。

      • -

ひとつは、のちにマッカーサーが「アメリカが45歳だとしたら日本の民主主義は12歳」と発言したことが知られていますが、GHQのアホほど細かく手取り足取りで押しつけがましく有りがた迷惑な検閲は、太平洋を越えて大変な気合いと決意でやって来た米軍さんが日本人を「野蛮な猿」だと思いこんでいた、というのを考えに入れないと具体的に実感が沸かないんじゃないか、ということ。

フセインを掴まえてイラクを民主化したり、アフガニスタンに乗り込んだときと何も変わらない。イラクやアフガンに対しては、なんとなく、「乗り込んでいく側」の視点でイスラムはよーわからん、と思ってしまうけれど、ニッポンのサムライも同じくらいよーわからんのでしょう。

戦後日本の学者が一生懸命、探検的な学術調査に出ていったり、構造主義にせよ文化史にせよ、人類学的な知見をベースにした人文社会科学を、これだと思って積極的に取り入れたのは、そういう意味で切実だったんだなあと思う。どーいう説明をして、どこでどう行動すれば、アホな白人が「野蛮な猿」とつきあう気になるものなのか、半世紀模索し続けてきたわけですね。

(ベトナム戦争くらいまでは、攻め込まれるアジアを見て、自分たちも20年前はああだった、と思えたけれど、そういう立ち位置をわたしたちはもうすっかり忘れてしまった。実は先方さんは、Victory Dayを今も記念してるし、忘れちゃいないと思うんですけど、こっちは勝手に、もう終わった気になっているわけだ。ロン・ハワード監督の「ガンホー」は未だに日本では公開されてないのに。)

      • -

それともうひとつは、上の本はどちらも原書が1980年代にアメリカで出ているということ。(前者はアメリカの日本学者の研究書、後者は日本からの留学生の学位論文。)

アメリカは思いっきり「黄色い猿」を差別してるじゃないか、ということや、そこへ乗り込んでやった検閲はかなり強引だったんじゃないか、ということを本人に向かって言えるには、それだけ時間がかかったし、それも、日本製品の輸出が好調で、史上最も日本が調子に乗ってたときに、ようやく言えた、ということですね。(普段は言えない本音を、酔っぱらった酒の席で、勢いに任せて吐き出す光景を思わせます。(研究自体は冷静で誠実だし、アメリカ側で徐々に関連資料が公開されつつあるタイミングで出たまっとうなものですが、そのような冷静さが日本の経済の好調を追い風にして可能になったのは否定できない。))

      • -

で、どうしましょう(笑)。

本音を言っちゃったんで、これを機に、もうきっぱり独立して、鎖国のところからやり直すのでサヨウナラ、と宣言するか、あるいは逆に、ここまでお世話になった実態があるんで、これからは身も心もひとつになります、まずは51番目の州にしてください、と言うんだったら、色々不整合が出てくるだろうから、憲法変えたらいいと思うのですが、

どうやら、そういう実体の伴う何かを計画しているわけではなく、押しつけられた感じが強いものを、あくまで国内的な手続きとして、自分から選んだ形にする、というだけのことなんで、それだけのことなら、一番簡単で安上がりなやり方で済ませればいいような気がします。

たとえば、自衛隊を国防軍にする、どうしてもそうしたい、というなら、憲法そのままで、名前だけ変える、というのではダメなんだろうか。国民投票とかしたら、ものすごい手間とお金がかかるでしょう。

セフレだか事実婚だか知らないけれどもズルズルと同棲生活が続いているカップルが、色々ややこしいからちゃんと表札出そうか、とグチャグチャ相談している程度の話のような気がしてならない。

「表札を出すとなったら、大家さんにも一言声かけといたほうがいいだろうけど、大家さんは口うるさい人なんだよね。言いにくいよね。」「それに、今はラブラブだけど、明日には別れちゃうかもしれないし……。」「むしろ、大家さんに無断で自由に表札を掛け替える権利を認めてもらうのが先なんじゃないの」(表札学者はこれを「硬性表札」「軟性表札」と呼ぶ?!)など悶々とする日々。でも、それって本末転倒ですから(笑)。

どっちにしても、入籍するとか、住民票を移す、とかまでやる気はなさそうだし、収入がどんどん減って、とても独立した所帯を営める余裕はないわけで……。

そんなことより、のたれ死にしない仕事を見つけるのが先だ。(他人事ではないわけだが、そのあたり、既に自分自身の所帯は確保したうえでネット上で政治家をはやしたててる暇人と違って、実際に日々接している若い人たちは、結構しっかり色々考えてますよね。ざっくりした印象ですが、80年代以後に生まれた人たちはマトモだ、という感触がある。きっとこの騒動は一過性のものでしょう。)