承前:遠来の者をもてなすところ

以下、前のエントリーにつけたし。

巡礼の文化史 (叢書・ウニベルシタス)

巡礼の文化史 (叢書・ウニベルシタス)

  • 作者: ノルベルトオーラー,Norbert Ohler,井本〓@51D2@二,藤代幸一
  • 出版社/メーカー: 法政大学出版局
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 単行本
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ホテルの遠く遡る語源は hospes (客)で、中世には巡礼者をもてなす施設があって……、という話があちこちに出てくるので、読んでみた。

遠来の者をもてなすべし、というキリスト教の慈善の精神が背景にあるようで、ただ、実際に巡礼者がどのような場所・施設で宿泊できて、どのような施しを受けることができたのか、色々あって複雑みたい。

対価を支払って寝る場所を得る有償の宿泊施設は、ローマ後期からあったとされるようだけれど、あまり条件の良い選択肢ではなかった印象を受ける。

前のエントリーで紹介した『音楽サロン』には、音楽家が旅をするときには、宿屋は不潔なので薦めない、土地のしかるべき人物を紹介してもらうべきだ、とされていたらしいことが書いてある。こちらは19世紀の話で、中世の巡礼とつなげて考えることはできないが、ヨーロッパの有償の宿泊施設が豪華になったのは、かなり最近のこと、もしかすると余暇の観光旅行が誕生した以後なのか? もうすこし調べたい。シヴェルブシュも読みたいけれど、母の家に置いてあり、今は手元にない。

鉄道旅行の歴史 〈新装版〉: 19世紀における空間と時間の工業化

鉄道旅行の歴史 〈新装版〉: 19世紀における空間と時間の工業化

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ホテルと日本近代

ホテルと日本近代

まだ最初のほうをちょっと見ただけですが、日本のホテルは居留地からはじまった、とされ、かなりあとまで、ホテル=外国人(西洋人?)の宿泊・滞在施設、という通念が残っていた証拠として、本書は、1960年代に、あるホテルを訪れた人が「ここは日本人も泊まれるのですか」と尋ねたエピソードを紹介している。

このエピソードを応用すると、ホテルは、日本人の私を西洋人と同等に丁重にもてなしてくれる場所、という一回捻った西洋崇拝のオーラを纏っていた(いる)ことになるのだろうか。

そしてホテルと音楽ホールは似ている説と組み合わせて、音楽ホールには、日本人の私を西洋人と同等に丁重にもてなしてくれる場所、という一回捻った西洋崇拝のオーラがあったりする(した)のだろうか。

少なくとも、西洋から遠来の音楽家をお迎えするのにふさわしい場所として音楽ホールが作られたケースはありそうな気がする。旧フェスティバルホールは、間違いなくそうですよね。

それ以前はどうで、それ以後はどうなっていくのか。

西洋崇拝という話題が入ると一気に話が湿っぽくなってしまうけれど、この話をカラッと明るく展開する手だてはないものか?

(1970年代のご当地ものカンタータ、服部良一「おおさかカンタータ」や大栗裕「大証100年」は、かなり楽天的かもしれない。柴田南雄の「ゆく河の流れはたえずして」と好対照で、松下眞一の交響幻想曲「淀川」は無理に明るく振る舞ったその中間か。)