巡業ルート

日本で唯一「大都市」であることが制度的に保証されている街の人の意識から漏れてしまうことのひとつに、地方巡業があると思う。

ちゃんと調べたわけではないけれど、外国から呼んだ人についでに「地方」を回ってもらうオプショナルツアーを組むときの組み方が徐々に変化しているような気がする。

外国の地名の入ったそれらしい名前の団体を呼べば、「地方公共団体」のいくつかが買ってくれるだろう、みたいな感じの雑駁なツアーは(少なくとも関西一円をながめるかぎりでは)激減した。指定管理とか、「納税者の論理」とかがあるから、税金でガイジンを呼ぶのも、今はそう簡単じゃない、ということだと思う。

その余波で、将来有望な若手や、とんがった才能、今すぐ大々的には売り出せないけれど早めに呼んで、「大物」になる前からコネクションをもっておきたいと業者が思うタイプの人にツアーで稼いで貰うのも難しくなっちゃってるんじゃないかなあ、と思う。言いなりで信用買いしてくれるケース、あるいは、役所のなかでは変人扱いなのだけれども音楽好きで通っている担当者、みたいな人が減っているはずだから。

(ちょっと前までは、「ドミニク・ヴィスがこんなところで歌うの?!」みたいな公演とか、今をときめくあのピアニストさんの国内初リサイタルはここだったんだ、とかいうのがあったよね。)

通常の外来ご一行様オプショナルツアーは、話のわかるあそことあそこ、という特定の場所を一巡する傾向が強くなって、そういうところは、ちょうど郊外ロードサイドのショッピングモールの高級ヴァージョンみたいになっているのではないか。そしてそれだけではソロバンが合わない大きな話は、確実に買って貰えるように内容やタイミングを絞り込む、ということになってるんじゃないだろうか。

(あと日本で複数回るより、東アジアの他の都市と組み合わせるほうが色々好都合、という発想は少し前から顕著みたいだし。)

2014年度の各方面の人事異動、事業計画は、なんか、そういう傾向が「見える化」(笑)してる気がします。そういう流れに乗っかるところと、そうじゃないところと……。なるほどね、やっぱりね、みたいな。

(何でも正価で買っちゃう「公共事業」が減るのは、民間の自由市場へ事業を開放することだから、長い目でみれば、いいことなのかもしれないけれど、それは、民間事業の「公共性」が高まることでもあるから、周囲の見る目が厳しくなるのとセットじゃなければおかしい。単なる「売れ行き重視」だと、サーカスめいた見世物度ばかりが高まりそうだし、実際、オーケストラのサーカス化orサーカス的満足度の高いオーケストラが優先的に招かれる傾向は、はじまっているようにも思われる。)

      • -

で、雑駁な巡業にお金を出し渋るようになった「地方」さんは、理念的には自主製作で創造する地域の拠点を目指しなさい、という話になっているのだと思うのだけれど、実際には何が起きることになるんでしょうね。

西日本各地の皆様には、きっとガイジンさんを呼ぶよりもきめ細かなサーヴィスを提供してくださるに違いない関西の団体・音楽家を、この機会に是非ともお薦めしたいところですけれど。

(そしてしかし、そういう風に東京をハブ・中継点にしない形での交流が難しい形に制度設計されていることを含めての、一極集中ではあるわけですけれども……。そのあたりの利便・不便を水か空気のような当たり前として生きることが「無意識」を育てるのではないだろうか。)