オブセッションの顛末

仮装集団 (新潮文庫 (や-5-8))

仮装集団 (新潮文庫 (や-5-8))

山崎豊子のこの小説は、武智鉄二演出をモデルにした労音の「お蝶夫人」の話ではじまりますが、若かりし日の栗山せんせは、特急列車に揺られて、関西まで武智オペラを観に来られたと聞く。

労音を扱った小説には山崎豊子『仮装集団』(新潮文庫)がある。左翼政党「人民党」(共産党)が労音に介入したことによる共産党とノンポリの主人公の対立という筋立ては、本書を読めば現実とは少し違い、あくまで小説仕立てであることもわかる。

関西大学東京センター長・竹内洋の書評ブログ : 『「つながり」の戦後文化誌』長崎 励朗(河出書房新社)

竹内洋が指摘するように、この小説は、例によって綿密に取材して書いたのだろうと思わせる細部を積み重ねている反面、決定的なところで実態からかけ離れた設定が入り込んでいるようですが、それはともかく、

武智鉄二という藝術 あまりにコンテンポラリーな

武智鉄二という藝術 あまりにコンテンポラリーな

伝説の大先生の演出で、三善晃に作曲を学んだ人が指揮をした公演は、生前の山崎豊子がかつて何を妄想したか、とは別のところで、やっぱり戦後日本は「最も成功した社会主義国」だったのかなあ、そのインフラを拡張・改良して新しい技術やアイデアの建て増しでやっていくことの可能性がどこまであって、その先は苦しい、みたいな見極めに格好のチャレンジだったのかなあ、とひとまず総括しておくと、フィンランドから来たもうひとつを観る心構えとして、とりあえず用が足りるかもしれないと思ったりする。

三善晃「レクイエム」

三善晃「レクイエム」

  • アーティスト: 日本フィルハーモニー交響楽団,日本プロ合唱団連合外山雄三,東京混声合唱団,日本プロ合唱団連合,三善晃,外山雄三,田中信昭,田原富子,日本フィルハーモニー交響楽団,北原篁山,高畑美登子,百瀬和紀
  • 出版社/メーカー: 日本伝統文化振興財団
  • 発売日: 2007/11/21
  • メディア: CD
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わたくし個人のことを言えば、ゴースト(ロマン派の人はこれが好き)やオバケ(戦後ゲージツには存外これに取り憑かれる一連の人がいたように見える)が我が身に取り憑いている様子はないので、はたして除霊ができるか否か、できるとしたらいかにして、というところに切実なスリルとサスペンスを覚えることもないままのおつきあいで、偶然の巡り合わせにしても、この作品を東西でここまで盛り上げるかねえ、と内心では思いながら、親類縁者の一足早いお彼岸の行事に参加している感覚かもしれない……。

法事も、近江のやり方と東京の最新式では、色々違いがあるだろうし、「徹底討論、オペラは音楽(歌唱力)かお芝居か?」みたいに生涯非転向の大先生と国際派が論争する「朝ナマ」も、祭りの風物詩なのでしょう。ああ、みんなまだ元気で矍鑠としているなあ、と。芝居を擁護するあまり、あの歌唱力をそこまで誉めるのは勇み足だろう、ということへのカウンターとして、生涯非転向の頑固さには、まだ存在意義がありそうだし……。

(若い者はブウブウ言うのだけれど、年が上の方々はこれくらいの演出がちょうどいい、という反応みたいで、この意識のズレも、法事・年中行事を昔通りにやるのがいいか、の話に似ている感じがする。「東京はうちらの地元と違ってうらやましいなあ」とそんなことばっかり言う人もいれば、最近は一度は上京して地元へ戻ってくるUターンが若い人の間にあるとも言いますよねえ。

指揮者兼監督さんは、この方向だったらどこまでいけるか、こっちをやってみたらどうなるか、可能性を試してる感じで、劇場をそういう風に使うのは、結果としていろんなもんを観れるわけだから、まあ、ひとつのやり方かもしらん、と思う。まだ、ひとつのものを深く掘る頃合いではないのでしょう。)