ロシア健在

ヴァイオリン演奏には、俗にロシア派、フランコ・ベルギー派がある(あった)と言われる。実態には諸説あるにしても、そこを起点に話すと色々な話題に広がるので、機会があると、まず、クロイツェルをクレーメル&アルゲリッチと、デュメイ&ピリスの演奏で聞き比べてみましょう、というのをやって、皆さんはどちらが好きですか、とついでに質問したりする。

今をときめくデュメイに人気が集まるかと思いきや、案外、学生さんには、クレーメルのきっちり決める演奏がいい、との声も少なくなかったりする。

あれをロシアン・スクールと呼んでいいか、とか、厳密なことを言い出すと色々あると思うが、そのあとでミーシャ・エルマンを聴いてもらうと、これも結構好評だったりする。

草食系とか言いますが、濃厚な音楽も人気は根強いようですね。

G線上のアリアに、オリジナルのエールの妙味はそういうところにはない、とオーガニックな古楽系・室内楽系でカウンターを当てるのはもちろん大事だし、オーケストラのサウンドをきれいにお掃除するのも当世風にスタイルをアップデートするために一度は通らなければならない道なのだとは思う。でも、モダン・ヴァイオリンのG線がたっぷり響くのも、知らずにいるのは勿体ない、ということですかね。

(どうでもいいが、バルトークのピアノ協奏曲を弾いたというので、1番か2番を清新な解釈でやり切ったのかと思いきや3番だった。うーん、この曲は、朝から晩まで猛練習して指先から血を流すガムシャラ系ピアニストのイメージとは、最初から遠いような気がするのだけれど……。そのような暑苦しいのとは対極の演奏だった、という論法による「誉め」は、ありもしない妄想的な仮想敵を持ち出すことになり感心しない。半世紀前のこの曲の世界初録音は、「老いた作曲者」の写真が当時の日本の作曲家や評論家に衝撃を与えたエピソードで知られているのだし……。3番は、むしろどちらかといえば、以前から「美音」派にもとっつきやすい曲と見られているのではなかろうか。そうしたイメージが適切かどうか、については、もちろん、演奏家が解釈・実践を通してそれぞれの態度を果敢に表明してくれたらいいわけだが。)