クッキーの辻占と三津五郎

刑事コロンボがイタリア移民の二世という設定で、セレブの前で庶民っぽさをあれこれ口にするのは、どこまで本当でどこからが誇張や出任せなのか判然としない態度で、下からもぐりこんで煙に巻くキャラクターなのだと思われ、ミンストレルショウの地口とか、ユダヤ人芸人が寄席で自らユダヤ人ギャグをやるのと地続きな気がする。たぶん、大和田俊之の言うアメリカ文化における「偽装」という戦略の一種なのだろうと、私は理解しておりますが……、

アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで (講談社選書メチエ)

アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで (講談社選書メチエ)

日本語吹き替えは額田やえ子の訳がブレンドされて、さらに独特の味わいになることでも知られていて、

日本食や日本から来た料理人のケンジ・オズ(笑、ハリウッドの脚本家はホントに日本映画を観てるんですねえ)が出てくる「美食の報酬」では、チャイナタウンの中華料理屋の場面でフォーチュン・クッキーが「クッキーの辻占[つじうら]」と訳されている。

歌劇「夫婦善哉」(昭和32年初演)には辻占の歌というか売り声が大正末or昭和初期の風俗として挿入されているのだけれど、これを見るまで、私は辻占という言葉や風俗すら知らなかったので、NHKのコロンボ初放送時(ウィキペディアには1978年5月27日と出ている)には、まだ「つじうら」という言葉が通じたのかなあ、微妙な言葉選びだなあ、と、先日見直して印象に残った。

八代目坂東三津五郎の  食い放題 (光文社文庫)

八代目坂東三津五郎の 食い放題 (光文社文庫)

1978年というと八代目坂東三津五郎が亡くなった3年後で、彼の死因は……っとこれはネタバレになってしまうか(笑)。

それはそうと、コロンボは、とにかく煙草(葉巻)をいつでもどこでもスパスパ吸っているところが、今みると素晴らしい。そして彼は、ちょっとお行儀は悪いけれども、灰を豪勢なお屋敷の床に平気で落とす。たしか実際、西洋では、かつて、部屋の床にゴミや食べ残しを捨てていた、とも聞きますよね。住人は上の階の窓からゴミや汚物を街路に捨てるので、道の端を歩くときは要注意だったとか、劇場の平土間は、桟敷の貴人たちの捨てる食べ残しが頭の上に降ってきたとか。衛生観念はそんなもんだった。