東北の鬼婆

「安達原」(能の黒塚)がそういう話だ、ということは、今まで何回あらすじを読んでもピンとこなかったが、舞台で目つきの鋭い婆さん(遣い手はイケメン桐竹勘十郎様)が神々の黄昏のノルンのように糸車を回しているのを見てしまったので、もう忘れないでしょう(今やってる文楽公演の第二部)。

[そのあと谷底へ降りていくところは、ヴォータンがニーベルンク族のところへ降りていくのを思わせる演出です。奥州の伝説は、なぜか北欧伝説っぽい。]

そして「三井の晩鐘」の呂勢太夫さんは、清治師匠と本公演でこういう仕事をしている人ですね。(あの祭文の場面は色々凄いわ。すすり泣く太棹の確かなテクニックはエレキギターの達人のように思えてくる。)

音楽と演劇の交わるところを充実させたい、いうのは、この種の素養の裾野がしっかり広がってないと無理なんやと思う。書類の上で数だけ揃えてもあかんのよ。

そういえば、こないだカーリュー・リヴァーをやった人たちは、大槻能楽堂まで隅田川を観に行ったり、色々勉強して臨んだらしいよ。そういう積み重ねが大事なの。

(人間国宝の太夫さんが引退した直後の今の文楽は、朝比奈隆が亡くなったあとの大フィルみたいなもので、いい仕事をする中堅に大事な場面を任せているから、そんなに悪くないんとちゃうか、という風にも見えますね。)