前略 加野瀬未友様

この記事は「うーん、読んでも自分のためにならなさそうな本だなあ…」と思っている自分の中での認識整理であって、第三者に納得してもらおうという文章ではないよ!と前置きをしておくよ!(保険保険)

http://d.hatena.ne.jp/kanose/20081111/japaneseruined

ソーシャルブックマークへのお返事をどのような形ですればいいものなのか、作法がよくわかりませんので、こういう形でレスポンスさせていただきました。

以下、加野瀬様の日記記事への反応ではなく、はてなブックマークでいただいたコメントへのお返事です。

# 2008年11月18日 kanose kanose 書評 ネタにマジレスしてもいいと思うが。あと仲俣氏を文芸評論家として評価してないのなら、どの辺を評価していないのか書いておけばいいのに

はてなブックマーク - 水村美苗という人の「釣り」?(「日本語が亡びるとき」) - 仕事の日記(はてな)

まず、いただいたコメントの前半「ネタにマジレスしてもいいと思うが。」は、私もそう思います。他の方から

「ネタニマジレスカコワルイ」的立ち位置の論評

というコメントをいただいていますが、私は、別に「ネタにマジレス」が必ずしも「かっこわるい」とは限らないと思いますし、さらに言えば、たとえかっこ悪かろうと、マジレスしたい人はするだろうし、それでいいと思っています。私自身も過去の記事を見ていただければわかりますが、すぐに他人の本に対して執拗にマジレスしてしまう人間ですし……。

仲俣さんの一連の記事に私が「がっかり」したのは、仲俣さんの文章が、元の本が「ネタ」や「釣り」である可能性、水村さんがこの本を「文学作品」のつもりで書いていて、そのことを言い訳(ロジックが甘いことへの逃げ)にしているかもしれない可能性を考慮していないように私には読めたからです。

私の立場は、基本的に「仲俣もっとヤレ!」です。

クールかつシニカルに突き放しているのではなくて、「仲俣、攻めが甘いぞ、そんなことでは相手はダウンしないゾ!」ということです。

私は加野瀬さんと違って、既に水村さんの本を買ってしまっています。「水村×仲俣」が一種の言葉のプロレスだとしたら、私は既にチケットを買って、リングサイドで観戦中であって、だからこそ、仲俣氏のパンチが本当に水村氏にヒットしているかどうか、自分なりに判断しながら楽しんでいるわけです。

そういう楽しみ方ができるのは、本を買った人間の特権だと思います。書物というのは、そういう楽しみ方をする娯楽商品ですよね。

あと仲俣氏を文芸評論家として評価してないのなら、どの辺を評価していないのか書いておけばいいのに

とおっしゃいますが、失礼ながら、本を買ってもいない方(プロレスで言えば会場へ足を運んでいらっしゃらない方)に対して、読者(観客)の一人に過ぎないわたくしが、どうして、わざわざ、バトルの実況中継のようなことをしなければいけないのか。それは、過剰な要求というものだと思います。

こう言ったからといって、加野瀬様に、この本を買え、買ってから書け、など野暮を言うつもりは毛頭ありません。「水村×仲俣」バトルがこれ以上面白く拡大する公算は低そうですから、お金の使い方としては、本を買わなかった加野瀬様のほうが、本を買ってしまったわたくしよりも「賢い消費者」である可能性が高いと思います。わたしがあれこれ書いているのは、はからずも水村本を買ってしまった人間が、少しでもモトを取ろうと思って悪あがきしているに過ぎません。

私は、クラシック音楽などというオールド・メディアにこだわりつづけている古くさい人間です。書物に対しても、「言葉のプロレス」という古くさい楽しみ方をしてしまいます。それだけのことだとご了解いただければ幸いです。

そして、仲俣氏に続く、さらに強力な「文学ファイター」の登場、あんなに長い全力投球の文章を費やすまでもなく、水村美苗を秒殺する「言葉の怪物」の登場を今か今かと待ちわびています。そういう人が出現すれば、「日本語/日本語文学は亡びない」と私達は確信できるでしょうから。

(クラシック音楽評論では、今、片山杜秀という怪物的な人があらわれて、今年の評論関係の賞を総なめしそうな勢いです。文学評論だって、もっと圧倒的なパワーをもつ人が出てきてもおかしくないと私は思っています。仲俣さんは、たしかに律儀にまっとうなことを誠実に書いていらっしゃると思いますが、律儀でまっとうで誠実であれば面白い評論になるかというと、そういうものでもないでしょう。買って損をしたと読者に思わせない読者に優しい評論家、「消費者の味方」であって、それだけでも尊敬と信頼に値するのでしょうけれど、水村批判をするんだったら、もっと「ヒール」に徹するヤマっ気があった方が、話は盛り上がると思います。無責任な「読者/観客」の戯言ですが。)