吹奏楽考

別の記事にトラックバックしていただいた記事の書き出しの一節が、ずっと宿題のように気になっております。

「国家と音楽」という本は、書店でぱらっと見て、私には合わなかったので買いませんでした。つか、確かそのぱらっと見たときに「日本の吹奏楽史では“軍楽の始まりは行進という身体改造のため”という定説があるけど、喇叭鼓隊はともかくフル編成の軍楽隊って明治時代以降行進の練習の場では演奏してるのか?」という疑問が浮かんだような。

ちょいとメモ。 | ぽかぁんとしてしまうこと

「吹奏楽の起源は軍楽」という定説は日本の洋楽史で繰り返し語られるのですけれど、そういえば、現在の日本の吹奏楽に至る具体的な経緯を漏れなく説明しているような文章を読んだ記憶がなくて、「近代洋楽史」の研究者にとっては「軍楽が起源(あとは興味なし)」でいいかもしれないけれど、そんな風に言いっぱなしにされて放置されてしまっては、今現在の吹奏楽に関わっている人たちは「ぽかんと」してしまうしかないだろうな、と思います。

「音楽と軍隊」というテーマは、いかにも「大日本帝国」の根幹に関わるかのような話なので洋楽研究者がとびつくわけですが、現在の吹奏楽には、辛うじて所属が「体育会応援団吹奏楽部」になっているとか、ある程度マーチングが普及している、という程度で、軍隊はおろか「体育会系」の痕跡すら希薄で、むしろ、文化祭の花形だったりする「文化系」のクラブ活動。しかも、高いピカピカの楽器を校費で買ってもらう等々、優遇されている「よい子」のイメージがあったのか、私が所属していた高校の「ブラスバンド部」(木管を含む吹奏楽ですがそういう名前でした)は、お隣の軽音楽部のロックバンドのお兄様、お姉様と話が噛み合う感じではなかったような気がします。ひょっとすると「のだめカンタービレ」的なパラダイスの原形かもしれない、のほほんとした活動ですよね。いきなり、「君たちの起源は大日本帝国陸海軍である、君たちは本来、軍艦マーチを吹奏していたのである」と言われても、戸惑って当然だと思います。

それに、中高は吹奏楽で、大学はオーケストラに入るというパターンも多く、雑食的に色々な音楽を「編曲」で演奏することもあって、中途半端というか、代用品というか、微温的で、どこにも、真冬の帝都でクーデターを起こしたりする気配はない……。それはどこの誰の話なのか、と。

大栗裕のことを調べるなかでいくつか思い当たるアイデアはあるのですが(朝比奈隆さんがどういう経緯で全日本吹奏楽連盟の理事長に就任したのか、かつてラガーマンだった朝比奈さんが青少年の吹奏楽をどう思っていたか等々)、日本国内で吹奏楽の現在に至る環境が整備されていく経緯と、イギリスやアメリカの(日本と似ていたり似ていなかったりする)吹奏楽のノウハウやレパートリーが、どういう風に日本に入ってきたのか、など、案外、考慮すべき要因は色々ありそうですし、

大掛かりな編成ゆえにオーケストラを扱うのに近い作曲技術が求められる(かもしれない)一方で、多感な、いわゆる「青少年」の皆様が主たる担い手なので動向が時代の流行に左右されているような気配もある。ただし、いわゆるポップスほどダイレクトに時代と同期している感じでもなくて、(微温的、ということと関連するかもしれませんが)流行の先端にさっと飛びつくのではなく、ワンクッション置いているような感じもします。(「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」にどういうジャンルがどういうタイミングで選ばれているか、というのをリサーチすると、何か見えてくるかもしれませんね。)

そんなことをあれこれ考えながら、今回、2つほど、吹奏楽コンサートの曲目解説を書かせていただきました。

大阪音楽大学第40回吹奏楽演奏会 2009年3月1日 13時00分(開場)14時00分(開演) ザ・シンフォニーホール 入場料1,000円 指揮/北野徹 演奏/大阪音楽大学吹奏楽団 K.フーサ/この地球を神と崇める 2009年度全日本吹奏楽コンクール課題曲より 真島俊夫/三つのジャポニスム B.ピクール/交響曲 第0番

http://www.daion.ac.jp/event/detail/20090301.html

大阪音楽大学短期大学部第14回吹奏楽演奏会 2009年3月8日 13時30分(開場) 14時00分(開演) 大阪音楽大学カレッジ・オペラハウス 指揮/小野川昭博 演奏/大阪音楽大学短期大学部吹奏楽団 フィリップ・スパーク/祝典のための音楽 ヤン・ヴァンデルロースト/プスタ 兼田敏/パッサカリア 2009年度全日本吹奏楽コンクール課題曲より クロード・T・スミス/吹奏楽のための交響曲第1番

http://www.daion.ac.jp/ex/event/public/detail.php?eid=380

フーサからピクールまで、兼田敏から真島俊夫までまとめて調べて、吹奏楽も色々あるのだな、と勉強させていただきました。こういうオリジナル曲ばかりの演奏会の解説で、「猿の惑星」とか、欧州連合時代の音楽とは、という話をしてしまうのは賛否両論あるかと思いますが、よろしければどうぞ。