地球と交信する公衆電話/1981年のハーモニカ/1984年の肩パット

オッフェンバックのパリとか、東京論とか、都市文化論風の文章を最近読んでいたせいか、NHK-BSでやっていた映画「探偵物語」を観ていたら、練習問題を解いているような気になってしまいました。

赤川次郎の原作で、主人公は東急沿線のお屋敷から渋谷の私学(青学がモデル?)に通う女子大生で、渋谷のラブホテルが重要な舞台のひとつになって、最後は成田空港の国際線ロビーの例のエレベーターで。途中に何度か出てくる並木道もドラマでよく見かけた場所のような気がします。

1983年の映画にこういった風俗が出てくる意味みたいなものについては、おそらく文化史的に面白くマッピングする達人さんがたくさんいるのだろうなあ、と思いながら観ておりました。

角川映画で音楽は加藤和彦ですし、主題歌は大瀧詠一作曲だし、薬師丸ひろ子の相手役は松田優作だし……。

でも、出てくるアイテムが1983年だと、まだ微妙に古いのですね。大学生たちがビデオ録画を話題にしているけれど、CDは出たばかりで、薬師丸ひろ子の部屋にあるのはカセットテープのダブルデッキ。

で、松田優作が探偵「らしさ」を見せるシーンに使われるのは駅の公衆電話。

ケータイが普及して実はまだ10年ちょっとだと思うのですが、今ではもう、コイン式の公衆電話を使うことは、本当になくなりましたし、薬師丸ひろ子が、気になる大学の先輩の電話番号を暗記しているのも、なんだか新鮮に感じてしまいました。(つい最近まで、私たちは電話番号をたくさん覚えていたんですよね。)

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実は、昼間キムタクのヤマトの映画を観に行きまして、オリジナルのアニメにもあった地球の家族との最後の交信の場面で、ああこれは公衆電話だなあ、と思ったのでした。

一定の時間が経過すると、話の途中であろうが何であろうが、ガチャンと切れる、というあのシステム。

(地球と一定時間だけ交信するというアイデアは、SF的にはもうちょっと別の系譜があるのかもしれませんし、オリジナルのアニメで観たときには、兵隊さんが戦地で家族に手紙を書く戦争映画の定番シーンの未来ヴァリエーションと認識したように思いますが、回線を強制的に切るのは、あれはやっぱり公衆電話ですよね。

映画のスタッフさんたちが、ケータイの出現で普通のドラマには使えなくなってしまった演出パターンを、物語としては未来なのにアイテムがレトロ、というヤマトならではの場面としてやっている。そしてそこに、いくつか今回の実写版スタッフによる新しいアイデアが重ねられて、作り手の配慮が感じられる場面と思いました。

ケータイが出てきたことで使えなくなった演出パターンがいろいろある、ということは、今のドラマ作りの現場で、しばしば話題になっているのかもしれませんね。)

そういえば、ドイツでは学生寮にいて、日本へ国際電話するときは、5マルク硬貨を用意して公衆電話だったなあ、というようなことを思い出してしまったりして……。

(以上、本日の作文に特段のオチはありません。あしからず。)

[追記1/25]

一歳年上の薬師丸ひろ子にアイドルとして興味を持ったことはまったくないのに何をやっているのだろうと思いつつ、NHK-BS第2夜「セーラー服と機関銃」も成り行きで見てしまいました。

「セーラー服」といえば……、共通一次ぶっちぎりの得点をゲットして京大医学部に現役合格したブラバンの先輩の家にみんなで集まることになって、行ってみたら、コンピュータの怪しげなゲーム大好きな人であることが判明して、そこで、おにゃん子クラブは誰が可愛いetc.というアホな会話があったことを唐突に思い出してしまい、蘇ってはいけない記憶のフタが開いて嫌な気持ちになってしまったのですが、

1981年のこの映画の最後に薬師丸ひろ子がハーモニカを吹くのは、自宅のこたつでハーモニカで作曲するのが常であった当時入院中の大栗裕にエールを送っていたに違いない、と思うことにします。(翌年夏にこの映画のロングバージョンが再上映された時には、既に大栗裕は亡くなっている……。)

最初に出てくる校庭は暁星学園で、最後のマリリン・モンローは新宿伊勢丹前らしいですが、浜口組の事務所で上映されていた2本の映画の題名がものすごく知りたいです。(片山杜秀さんだったら一目でわかる、先刻ご承知なのだろうか。)

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[追記1/26]

そして第3夜は「Wの悲劇」ですが……、これはもう、いわゆる「80年代」が来てしまった感じですね。

劇中劇のバックに流れているのは、いかにも島田雅彦が聴きそうなサティ、ヴェルディ、フォーレの「おしゃれなクラシック」だし、ラストシーンの薬師丸ひろ子のスーツは思いっきり肩パットが入っているし、降ろした前髪が今にもトサカと化して跳ね上がりそうだし……。

(それに、三田佳子が「新劇女優」というのはどうなのか。大映テレビでアイドルさんが音大生のふりをしているのを見ているようで……。いわゆる「虚構の時代」のごっこ遊びということでしょうか。)

この映画の封切りが1984年で、翌年にはいわゆる「男女雇用機会均等法」が施行されて、世は若い男と女が対等なパートナーとして夜遊びするトレンディ・ドラマの時代になって、女子アナさんが各局に出現して……。

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本書で露木茂が「女子アナを創った」上司としてインタビューに応じている。

世良正則に拍手してもらいながら一人立ちした20歳の女の子の四半世紀後の未来を、私たちは既に知ってしまっているわけで……。

思い切り底上げした四半世紀をどうにか切り抜けて今がある。あの頃、自分が2011年などというSF的な年号まで生きているとは想像しなかったですもんね。

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もはや誰も覚えていないと思いますが、私は「狸御殿」で歌って踊った2000年代の薬師丸ひろ子はアッパレと思っております。