それと知らずに過ごした聖金曜日前後の近況

柴田南雄とバルトークのエントリー、しつこく細かい手直しを続けていますが、水面下では、バルトークの次はファリャを勉強しようと色々探索しております。

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ファリャも最終的には大栗裕とつながる予定で、接点はアラルコンの小説「三角帽子」の木下順二による翻案に作曲した歌劇「赤い陣羽織」なのですが……、

三角帽子―他二篇 (岩波文庫)

三角帽子―他二篇 (岩波文庫)

岩波の復刊、旧仮名遣いですが、訳文は読みやすい。

ファリャといえばスペインで、スペインの歴史を調べるとこれも色々ありますし、あと、音楽でスペインといえば濱田滋郎さんですよね。

濱田滋郎の本 ギターとスペイン音楽への道

濱田滋郎の本 ギターとスペイン音楽への道

上の本にはご自身の経歴を語るインタビューがあって、実はお父様がこの人だったと始めて知りました。

浜田廣介童話集 (ハルキ文庫)

浜田廣介童話集 (ハルキ文庫)

村から姿を消してしまった青鬼さんは、西へ西へと移動してイベリア半島にたどりついて、フラメンコ・ギターを掻き鳴らしている。それが濱田滋郎さん、ということになるのでしょうか……。

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で、戯曲にそのまま作曲するオペラといえば、歴史的には「サロメ」と「ペレアス」が有名だから、あわせて、調べ直そうと思いこの本をのぞいてみたりして、

最後に渡邉守章の「推薦の辞」があり、有識者の推薦を添えた書物というのはちょっと懐かしい作法だと思っておりましたら、著者は村山しおんの筆名で書いていらっしゃる作家。60歳を超えて芸大大学院で音楽文芸を学ばれたようです。

そうすると、ドビュッシーがワグネリズムを脱却したのちにも高く評価していたとされる「パルジファル」は、あわせて見ておいたほうがいいだろうと思いまして、先の金曜日に大阪音大へ出講したときには、ヴォルフの「お代官様」(←これもアラルコンの小説が原作)の資料を集めるとともに、「パルジファル」のLD映像を図書館から借りだして見直したりしていました。

パルジファル(全曲) [Laser Disc]

パルジファル(全曲) [Laser Disc]

Amazonにデータが出ていませんが、たぶん、私が観たバレンボイムのパルジファルはこれだと思います。大学でよく話題になるのですが、オペラの映像は、音楽史の授業などで使う場合には、最近の新演出DVDよりも、LD時代のオーソドックスなもののほうが都合がいい場合が多いんですよね。目先の新しさでDVDやBlue-Rayを売り出すのを考え直してもらえないものでしょうか。商売の都合上、仕方がないのかもしれませんが。

そうしたら、先の金曜日は、いわゆる「聖金曜日」だったのですね。大阪音楽大学音楽学資料室で、2011年の聖金曜日に、わたくしは何も気付かずに、終演後の拍手がNGなBühnenweihfestspielを再生してしまっていたようです。

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こういうのを、知らぬが仏、とうっかり言ってはいけない。(吉田寛の説だと晩年のワーグナーはインドこそドイツだ、と妄想していたそうですけれども……。)

ブッダと聖杯の騎士が衝突しないように気をつけながら、スペインゆかりのイエズス会やオプス・デイ(←日本の本部は芦屋にあるらしい)の方々にも、レコンキスタで半島から排除されたムスリムの皆さまにも、芸術家を輩出したカタロニアの方々にも、音楽方面ではラヴェルとの関連ばかりが繰り返し言及されるバスクの方々にも、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼のシアターピースを制作した柴田南雄・純子ご夫妻にも、中沢新一に音楽の起源を夢想させたりもしたアルタミラの洞窟を発見したヨーロッパの考古学愛好者の方々にも、「ドン・キホーテ」だけではないとばかりにカルデロンを翻訳してスペイン文学にも通じているところを見せようとしたら上田敏に発音の間違いを指摘されてしまった森鴎外にも、まだワールド・ミュージックという言葉はなく小泉文夫が「諸民族の音楽」を伝道していた1950年代60年代に国際社会へ復帰して「西側」の文字通りの最右翼となった戦後スペインから次々と送り出されて外貨獲得に貢献したのかもしれない数々の「本場の」舞踊団の公演でフラメンコに取り憑かれてしまった方々にも、ヘミングウェイとスペイン人民戦線から人生の大切なことを学んだという(元?)運動家の方々にも、それぞれに敬意を払いつつ、そしてアンダルシアの物語で「カルメン」のミカエラの出身地がガリシア、「三角帽子」のフラスキータがナバラの女と設定されているのはどういう意味なのかということにも思いを馳せつつ、スペインを学びたい所存でございます。

ダ・ヴィンチ・コード デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]

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この映画では、ダ・ヴィンチのこと以上に、オプス・デイの描き方について、誤解を助長するとして当事者の方々から強い批判があったようですが。
無限曠野/銀河街道-柴田南雄後期作品集

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  • アーティスト: オムニバス(クラシック),谷篤,東京混声合唱団,柴田南雄,田中信昭,中井憲照,西岡茂樹,山田百子,中嶋香,高橋悠治,柴田乙雄
  • 出版社/メーカー: 日本伝統文化振興財団
  • 発売日: 2009/05/20
  • メディア: CD
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それにしても、半端な態度では、晩年のファリャをめぐる入りくんだ事態を受け止めるのは難しそうですね。

  • ファリャは、アルゼンチンのコルドバ高地のイエズス会が開拓した村で静養しながらカタロニア語のテクストに作曲しており(未完)、
  • このアルタ・グラシアという村は、ファリャが亡くなった数年あとには、喘息の静養のためにチェ・ゲバラ少年がしばらく滞在しており、
  • 同じ頃コルドバ近隣にはナチスの残党がドイツ風の住居を建てて暮らしており、
  • 一方、ファリャのカンタータは弟子が補作したうえでフランコ政権の強い希望でスペインにおいて初演されて、
  • 今ではNaxos Music Libraryで、このアトランティスとコロンブスを歌い上げる大作が、シモン・ボリバルの名前を冠する大学の合唱団の演奏で聴けるようになっている、

……というようなことが、エル・ドラドの金銀を原資にして栄華を誇った「日の沈まぬ帝国」の寡黙で寡作な音楽家の身に起きていたようで。

Atlantida / Amor Brujo (Ballet Suite)

Atlantida / Amor Brujo (Ballet Suite)