バルトークは「女好き」

女性ヴァイオリニストに対しては、若き日のヴァイオリン協奏曲のシュティフィのときとか、レメーニに翻弄された2つのラプソディとか、一方的に入れあげて、ぷいっと逃げられちゃったようだが、28歳のときに16歳のピアニスト、マルタと結婚して、15年後に離婚した2ヶ月あとには、やはりピアニストの卵で当時19歳のディッタと再婚している。

いや、別にかまわないんですけど、なんだか、青ひげ公そのままだなあ、と思わないではないし、トランシルヴァニアの民謡への目覚めも、伝えられるところでは、女性(家に雇っていたお手伝いさんと聞いたような)の歌声に魅せられたのが、ひとつにきっかけだったと言うじゃないですか。

バルトークの「バルバロ」は、単純な力の崇拝ではない、と言うけれど、男がマッチョで何が悪いか、と言っちゃいそうなのを寸前で踏みとどまってこらえてるような感じがする。たぶん、決して口を割らないと思うし(笑)、俺はニーチェやリヒャルト・シュトラウスじゃない、という風に堪えることがモダニズムの原動力になったのだから、やせ我慢も、やりようによっては生産的、かもしれない。

「ネオ社交界」より、ずっとマシなのは言うまでもない。

モーツァルトのあとにベートーヴェン、リストやリヒャルト・シュトラウスのあとにバルトーク。こういう「堪える堅物」が出てくるタイミングというのが、どうやら、あるみたいですね。

バルトークの日本語の伝記、ちゃんとしたのが読みたい。

バルトーク : ヴァイオリン協奏曲 第1番 & 第2番 (Bela Bartok : Violin Concertos Nos.1 & 2 / Isabelle Faust (Violin) | Swedish Radio Symphony Orchestra | Daniel Harding) [輸入盤・日本語解説付]

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  • アーティスト: イザベル・ファウスト,バルトーク,ダニエル・ハーディング,イザベル・ファウスト(ヴァイオリン),スウェーデン放送交響楽団
  • 出版社/メーカー: harmonia mundi France / King International
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イザベル・ファウストは、罪を犯していないことを主張する「アリバイ作り」の名手だと思う。

「このブレス記号を私はちゃんと読み取っていますよ」

「このリズム、ハンガリー人ではない私にはどういう意味か理解せよと言われても困りますが、楽譜がどういうフレージングになっているか、ちゃんと読み取っていますよ」

等々、という詳細な注釈が音になっているように思う。

それ以上に踏み込めと言われても無理だ、というのは、実に正しいとは思うのだけれど、この路線で行くと、世界のあらゆる音楽は、どれも「私」が作ったものじゃないから、ヴァイオリンを弾く私は、弾けば弾くほど、セカイから疎外されていくことになってしまうんじゃないだろうか。これも「私」ではないし、あれも「私」ではない……という、アリバイ=不在証明の無限連鎖。

だから、バルトークの「叶わぬ恋」の第1番と、もうヨーロッパを捨ててアメリカへ行くしかないかもなあ、という悶々のなかで開き直った「ハンガリー万歳」の第2番(フィリップ・ロスはバルトークが北米で「幻想の帰郷」を果たしたという言い方をしていましたね)に取り組むのは、当人にとって、きっと意味があることなのだろうな、とメタな納得をすることになる。猛烈に優秀であるがゆえに、疎外とか、叶わぬ合一の幻想とか、そのあたりをさまよっている人のような気がします。

こういう人は、ソロで独りにしたり、ハーディングのようなオタクとつるむんじゃなくて、アンサンブルのほうがええんとちゃうか。