ゲルトルート・アイゾルトが見たい!

リヒャルト・シュトラウスとドイツ演劇界の関わり、ということで思い浮かぶのは、なんといってもマックス・ラインハルト。ばらの騎士とナクソス島のアリアドネは、ホフマンスタール&シュトラウス&ラインハルトの豪華な顔ぶれで作りあげられたわけですが、

本人の趣味にも近いと思われるモーツァルト主義に転じる前に、とにかく一発当てることを考えて「サロメ」をやるぞ、となったのは、ゲルトルート・アイゾルト Gertrud Eysoldt (1870-1955) のベルリンでの芝居が重要そうですよね。彼女は、サロメ、エレクトラ、ルルを演じる表現主義演劇の女神みたいな人だったらしいですから。

その後映画にも出ているようで、「…reitet für Deutschland」という1941年のプロパガンダ映画では、もうお婆ちゃんですけれど、若い頃はどんなだったんでしょうね。

主人公の貴族は第一次大戦で負傷して、下半身が麻痺してしまった乗馬の選手で、叔母(これがアイゾルト)や調教師(アフリカ系ドイツ人という設定みたい)とその妹(美人)のサポートで麻痺を克服して現役復帰を果たし、欧州大会で優勝する(最後はドイツ国歌)。

愛する名馬が、戦後のどさくさで荷馬車につながれていたのを取り戻すのはドイツの再軍備だろうし、欧州大会で各国のセレブたちがドイツ選手を散々野次るのをものともせずに優勝するのは、「力によって祖国の誇りを取り戻す、勝てば官軍」ということですよね。最後まで高得点を争う第二位はイタリアの選手だったりして、とてもわかりやすい独伊枢軸のプロパガンダでございました。

(映画の筋はここでわかる。http://de.wikipedia.org/wiki/...reitet_f%C3%BCr_Deutschland

ドイツの銃後は、こんな風に明るく健全で誇らしげな表象があたりを埋め尽くしていたんだろうなあ、と、改めて最近の総力戦論で指摘されていることを確認できるわけですけれども、それはともかく、

アイゾルトは、主人公が病院を出てお屋敷に戻った開始30分あたりで登場して、体格こそ楽劇歌手のように堂々としていますが、毅然として頭の回転が早そうな口調だし、必要なことをテキパキ采配して、鈍重な印象はないですね。

冒頭の肖像画(ウィキペディアより、http://de.wikipedia.org/wiki/Gertrud_Eysoldt)を見れば、かつては容姿も妖艶だったのでしょうし、表現主義演劇は、確かに状況・ストーリーを読むとドロドロしているけれども、主演女優は、そんな環境を切り裂いていくわけで、血まみれで刃物がゆらめいたりはするけれど、自我がとろけていたわけではなさそうですね。