前に藤原歌劇団青年グループの活動をリストアップしましたが、
http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20110524/p1
その青年グループのリーダー、竹原正三さんの後半生について、わたくしがあれこれ書く守備範囲ではないとは思うのですが、あまりにも素敵な人生だと思えてならないので、簡単に。
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たぶん、ごの方面に詳しい方にとっては、今さら何を言っているのかと思われてしまいそうですが、まず略歴。
2006年2月に78歳で亡くなったとのことなので(http://blog.livedoor.jp/naoh123/archives/50751879.html)、1928年もしくは1927年生まれだと思うのですが、慶応大学文学部国文科卒で、三浦環、ノタルジャコモに師事。オペラ歌手として藤原歌劇団に所属。1952年ニューヨーク・シテイ・オペラ出演後、1953年に青年グループを結成。(このグループの活動は、竹原が私費を投じたものだったようです。)1966年3月の「ルイーズ」で活動休止。
ここまでが、以前に書いた日本でのオペラ活動を行っていた時期で、このあとは、最初の著書『パリ音楽散歩』(芸術現代社、1979年)の著者略歴によると、
1967年よりパリに定住。オペラ・バレエ評論を担当。現在、パリ日本語学校校長。
『パリ音楽散歩』は、パリの音楽家ゆかりの場所(作曲家が住んだ家や滞在したホテルなど)が調べあげられていて、巻頭の大量の図版を眺めるだけでもうっとりしてしまう美しい本ですね。
音楽家ゆかりの建物だけでなく、「ボエーム」のカフェ・モミュスや、セーヌ河岸の「外套」の波止場なども紹介されています。
- 作者: 竹原正三
- 出版社/メーカー: 芸術現代社
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そういえば、青年グループの旗揚げ公演がプッチーニ「外套」なのは、三部作を順番に取り上げる一回目というだけでなく、竹原さんのパリへの愛着の現れでもあったのかも。アパッシュやグラン・ギニョールのパリ、というやつですね。
そして「音楽現代」等へ寄稿したパリからのオペラ通信記事は、バスチーユの新しいオペラ座ができたときに刊行された『パリ・オペラ座 -- フランス音楽史を飾る栄光と変遷』に反映されているようです。1960年代後半から1990年代まで、オペラ座の演目を見続けていらっしゃったのですね。
- 作者: 竹原正三
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本の記述はパリ・オペラ座の誕生からの歴史(本書執筆時点で約320年)を追っていますが、やはり、著者が自らの目で観た公演についてのコメントは特別な意味があると思ってしまいました。なかでも、1970年代にハンブルクからリーバーマンが来て、オペラ座ががらりと変わっていく様子は、ご自身も思い入れがあるようで。パトリス・シェローが「ホフマン物語」で評判になり、ブーレーズとともにバイロイトの百年目の「指輪」新演出に抜擢されて、同じブーレーズと「ルル」3幕版をやって……、というのを現場でリアルタイムに観ていらっしゃったのですね。
日本での活動も、パリでの見聞も、戦後のオペラの一番面白いところに遭遇する羨ましい人生。こういうことがあるんだなあ、というか、こういうことが起きてしまうのがお芝居というナマモノの世界の醍醐味なのかなあ、と思ってしまいます。
1973年の初演と一部出演者は違いますが、オランピアが「本物の人形」(←変な言い方ですが、人間が人形を演じるのではなく、という意味です)だったりするシェロー演出の1979年ライブ。ジャック・オッフェンバック:歌劇 <ホフマン物語> 全4幕 [DVD]
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ジャン=ジャック・ナティエ大先生までもがご登場して記号学的に「分析」(笑)したこともある、あまりにも有名な舞台ですが、改めて映像を観ると、これはシェローのリングでもブーレーズのリングでもなく、ギネス・ジョーンズのリングではないかと思いました。最初に登場する「ホヨットホー」のバカ娘ぶり(ほぼ「Dr.スランプ」の眼鏡ッ娘ロボットがキィーンと飛び回るのと同じに見える(笑))が素晴らしすぎて、全編が終わると、あの娘がこんなに立派に成長して……という感慨が涌いてくる。
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付録のメイキングをみると、当時のシェローは本当に若いイケメン青年ですね。ヴィニフレート・ワーグナーが実際に会ってみて、怒るに怒れなくなったというのもわかるような……。
この演出の「ヴォツェック」が東京でも上演されていたというのは、恥ずかしながら、今回調べるまでちゃんと認識していませんでした。あの頃の東京は、やたらとオペラの巨大プロジェクトがあって、遠くから眺めていると何が何だか、わけがわからなくなっていたような記憶があります。3.11.で一息つくことになったこのタイミングは、過去30年の東京のオペラ公演史を見直す良い機会かもしれませんね。
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