大阪の核心部といえば、やはり上町台地と船場でしょう(中沢新一(談)「アースダイバー的「大阪の原理」」、『現代思想』2012年5月号)

「大阪論」というと、『現代思想』のような傾向雑誌ですと(笑)、ともすれば注目は西成に集まりがちですが、大阪の核心部といえば、やはり上町台地と船場でしょう。(中沢新一(談)「アースダイバー的「大阪の原理」」、『現代思想』2012年5月号、160頁)

ですよね。

現代思想2012年5月号 特集=大阪

現代思想2012年5月号 特集=大阪

  • 作者: 酒井隆史,中沢新一,井上理津子,モブ・ノリオ,木村政雄,千葉雅也,磯崎新
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: ムック
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京都帝大卒の朝比奈隆の周りに集まってきた梅田新道生まれの武智鉄二とか、船場生まれの大栗裕とか、あるいは、わたくしの一応の恩師だった農人橋の金貸しの家の生まれの谷村晃とか、ええとこのボンボンの道楽者が楽しい人生を送った、という話だと思うわけです。(そしてそういう人たちにほだされて、メチャクチャ儲かった時代の放送局の社長権限で鈴木剛がプラザホテルを建ててしまったり、原清がザ・シンフォニーホールを創ってしまったりもした。)

さすがに、プレイボーイの中沢新一はよくわかっているようです(笑)。蛇の道は蛇。

そして、『現代思想』の大阪特集はひどく硬派で深刻なわけですが、わたしは、本物の道楽者(の末裔)は、橋下氏が出てきた程度で改心したりするようなヤワな人種ではないだろう、と思っております。

お金がないなら、ないなりのやり方で、楽しく遊ぶであろう、と。

(資産管理に失敗してほぼ破産、一家離散のような状態になった武智鉄二が、身一つで東京へ行ったあとの後半生を見れば、まったく、懲りてなどいないことがよくわかります。)

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新藤兼人版「春琴抄」。武智鉄二が春琴の父役で出演しています。林光の音楽がいつもながらぴったり決まっていますね。

そういう人たちの生き方を周りが心配してもしょうがないし、ほっといたらいいんじゃないの、と、いわゆる「大阪論」の奇妙な盛り上がりを眺めて、私はそんな風に思うんですよね。

ワルモノを懲らしめているかのような橋下のポーズが支持されるのは憂うべきポピュリズムだ、という話ですけど、あの弁護士のお兄ちゃんは、調子に乗りすぎた人たちにお灸を据える役回りにちょうどいいから、しばらく、やらしとこう、くらいの話ではないのだろうか。大阪の首長(むしろ知事のほうがキャラの変化に富んでいますが)というのは学級崩壊の学校教師にみたいなもので、情に脆い芸人さんとか、役人さんあがりの真面目な人とか、温厚なおじさんとか、色々ためしているなかで、今度は熱血スパルタ教師が赴任した、ということのような気がします。校長(知事)として朝礼で訓示するだけでは飽きたらず、今年から直接、一番ややこしい学級の担任を受け持つようになったらしい、みたいな感じ。

そして彼の言動にいちいち怯える人たち(自分が大阪に住んでいる当事者でもないのに!)というのは、ひょっとすると、自分たちにも何か後ろ暗いことがあるんじゃないか? 自分たちへ飛び火したら大変だ、みたいな(笑)。

「大阪アースダイバー」[……]はそのような意味で私にとって大きな挑戦でした。文体も変えなければなりませんでした。隠すことであらわにしたり、逆にストレートに書いているようで、じつは隠しているというデリケートな文体の開発が必要でした。そういう試行錯誤をくり返しているうちに、大阪の話芸やふつうの人たちの会話の秘密などにも理解が行き届くようになりました。(同上)

ちょっと格好つけすぎな気はしますが、「隠すことであらわにしたり、逆にストレートに書いているようで、じつは隠しているというデリケートな文体」というのは、きれいな言い方ですね。(談←この大阪特集は、なぜだか妙に「談」が多い。『現代思想』は、最近はいつもこうなのでしょうか?)