武智鉄二・坂東三津五郎『芸十夜』復刊

NHK-FM吹奏楽のひびき、時間を勘違いして聞き逃してしまいました。大失態。金曜午後の再放送を予約録音することにします。

表章先生の遺作は、資料研究をやろうとする者は必読。西洋音楽史とかカルスタのいいかげんな輸入業者感覚で日本を語れば、お手軽ラクチンに業績をでっちあげられると思ってる人は、今すぐ学位を返上するべきだと思いますが、

昭和の創作「伊賀観世系譜」―梅原猛の挑発に応えて

昭和の創作「伊賀観世系譜」―梅原猛の挑発に応えて

梅原猛は論争家として知られているようですが、私は「仏教の思想」シリーズしか読んでいません。重要な「知」が秘教的に隠されている状態を望まない人だという印象を持っています。

世阿弥の生地にしても、自説に固執しているというよりも、伊賀説が俗説で疑わしいというのであれば、学者が隠然と仲間内で囁き合うのではなく、公然と否定すべきだと考えていたのではないか。梅原猛は、意図的なのか、結果的にそうなったのかはわかりませんが、これだけの反証を引き出したのだから、ヒール役として良い仕事をした、と言ってもいいんじゃないかという気がします。

だから、表先生の絶筆が、「やっぱり表先生は偉い、この人の書くことを信じていれば大丈夫だ」という権威付けの材料になって、閉鎖的な学問状況に棹さすことになってはいけないだろうとは思いますが。

それはともかく、武智鉄二が坂東三津五郎を相手に自分自身のことを語った『芸十夜』が復刊したことを知りました。

芸十夜

芸十夜

武智鉄二は、最晩年に自伝を構想していたらしいのですが実現していないので、幼少期のことなどを一番詳しく語っているのはこの本だろうと思います。

武智鉄二はどこからアプローチしていったらいいのか、手掛かりを掴み難い人ですけれども、この本と富岡多恵子との対談本が、どちらも現役で売られているので、ここを入口にするのがいいようです。

伝統芸術とは何なのか―批評と創造のための対話

伝統芸術とは何なのか―批評と創造のための対話

膨大な著作の主なものは三一書房の『定本武智歌舞伎 武智鉄二全集』に入っていて、あとは権藤芳一さんが『上方芸能』の連載「武智鉄二資料集成」に著作リスト、演出作品リスト、年譜等を挙げてくださっています。連載50回を越える途方もない情報量ですが、いいかげんなことを書いてしまわないためには、ちゃんと目を通しておくべき資料だと思います。

昭和20年代の「武智歌舞伎」と通称されている活動については、権藤さんの著書にその概要がまとめられています。これも必読。

上方歌舞伎の風景 (上方文庫)

上方歌舞伎の風景 (上方文庫)

その上で、能・狂言、人形浄瑠璃、歌舞伎、オペラ、新劇にひとつひとつの作品・役者・公演があるのだから勉強すべきことは膨大ですが、一歩ずつコツコツやるしかないですね。

大栗裕の作品のなかで、たぶんオペラ史とか戦後音楽史といった大きな文脈に登録できる一番重要なポジションを占めているのは歌劇「赤い陣羽織」と「夫婦善哉」だと思いますが、この二つの作品を武智鉄二の演出抜きに考えることは不可能なので、色々な角度から部分的にアプローチすることはできるでしょうけれども、本格的に「論じる」のは、一番最後になるんじゃないかという気がしています。