怠惰のススメ、目標は参加者ゼロだ!

以前、あるコンサートをお手伝いしたあとで、その演奏会は幸い7、8割の入りでひとまず盛況と言える客席の埋まり具合だったのですが、ある演奏家が「あれだけ客が入ったのだから、主催者はガッポリ儲けたのだろう」と思い込んでいるらしいとあとで聞いて吃驚したことがあります。

その演奏会の主催者は全員手弁当で、解説を書いたり色々やった私も一銭もいただいておりませんが、それでも収支はギリギリです。

そんなもんなんですよ。(千人以上が入る会場での演奏会ですけどね。)

お手本のような成功としてサンフランシスコや金沢の例が本になったりしていますが、あれは例外中の例外だし、気をつけて読めば、どうして例外的な経営が成立しているか、その理由もほんのりと見えてきます。

どうやら世間というものはそんなことは考えない。コンサートの運営の内情は、それくらい世間には知られていません。

とはいえ、台所事情を知らせないのは舞台に立つ者の意地のようなところがあるので、実際はこうなんだよ、と触れて回るのがいいか、というと、そうは言えない。

知らないで幸せなら、それでいい、ということもある。

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とはいえ、そういう状態ですと、まことに残念なことですが、

佐村河内/新垣のケースでは、クラシック音楽関係者ががっぽり稼いだに違いない、と思い込んで堂々たる「研究」を立案する御仁が出てきてしまったりもするわけですね。

でも、それでもなお、私は別に、すべてが「公開」されるべきだ、などとは思いません。

たとえば、今回の増田聡先生の「大ポカ」は、既に今年の初めの段階で先生は佐村河内を研究テーマにしようと決めていらっしゃったのですから、だったら、彼の名義で作品を演奏した団体や個人を取材するなり、彼らのコンサートに、あるいは、それに類するコンサートに足を運んでくれたらよかったのに、と私は思う。

別に正式の取材をいきなり申し込まなくても、普通にチケット買って客としてコンサートに行けば、おおよそ、どういう内情で運営されているのか、なにか感じるはずです。一歩進めて直接もしくは間接的な関係者に取材すれば、さらにはっきり、「公開」されていないけれども別に隠しているわけではない様々なニュアンスがわかったはずです。

なぜ、その程度のことすらせずに、いきなり、あんな大チョンボに突き進んだのか、私はそれが残念でなりません。

その後の増田先生のツイートを拝見していると、先生は「人間、怠惰でいいのだ、怠惰であるがゆえに見えてくるものがある」という人生哲学を全うするおつもりのようですから、おそらく今後追加で何かを根本的に調べ直したりされるおつもりはないと思います。

私には、これは怠惰の仮面をかぶった傲慢に見えます。

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けれども、おそらくそのように申し上げても「見解の相違」と一蹴されると思いますので(百田氏が裁判沙汰になる直前までツイッターで吠え続けたのと当事者としての心理は似たようなものでしょう)、ここではポピュラー音楽学会に参加をお考えの皆様に、ご提案させていただくことにします。

幸いなことに、増田先生は、次のようにご発言していらっしゃいます。

「大学生のうちに何をやっておけばいいですか?」とか最近訊かれなくなった。たぶん学生さんはそんな迷いを抱かず寸暇を惜しんで心に決めたことに取り組んでいるのだろうと思う。けどまあ思うけど学生のうちに絶対やっておくべきこと(後で取り返せないこと)は「徹底して無駄に時間を過ごすこと」やな

https://twitter.com/smasuda/status/538304320798609408

ポピュラー音楽学会への参加を予定している皆様におかれましては、是非とも12月6日(土)は徹夜で飲み明かして、翌12月7日(日)は13時以後の午後のセッションから参加する、というのが、おそらく先生にとって最も喜ばしくも頼もしい、時間を贅沢に大盤振る舞いに使う生き方であろうかと思われますので、間違っても朝10時から勤勉にワークショップに参加するというような、企画者の意志に反する振る舞いは自粛されることを強くお薦めします。

「どーせ、話題作りの便乗企画を昔の名前で出ている連中がくっちゃべるだけだから、行くだけ無駄」と居酒屋で夜明けまで騒ぐのが、正しい研究者の姿です。

そしてクラシック音楽のコンサートは夜、早くても午後から開催されるのが通例ですので、皆様におかれましては、朝っぱらからワークショップなどという勤勉な生き方をせず、今後とも、ナイトライフの彩りとして、音楽会興行に関心をもっていただけますよう、お願い申し上げて、私からのご提案とさせていただきます。

日曜の朝っぱらのワークショップは、参加者が少なければ少ないほど「成功」なのです。目標ゼロを目指しましょう!

追伸

とはいえ、人間は弱い生き物ですから、つい「勤勉」の誘惑に負けて早起きしてしまい、ワークショップにうっかり参加してしまうことがないとも限りません。

その場合は、己の弱さを恥じて、誰にもその事実を知られないようにすればよろしい。そこで見聞きしたことは誰にもいわない。間違っても、ソーシャルネットワークに感想を流す、というようなことはなさいませんように。

秘め事は胸の内にしまっておくのが美徳というものです。

あなたがわざわざ、己の勤勉というみじめったらしい弱さに負けて告白することはない。学会の正式な行事なのですから、その概要は、たとえ参加者ゼロであったとしても、あとで「書類」として公開されるはずです。あなたが人生の貴重な時間と労力を浪費する必要はありません。

増田先生、私は間違ったことは何も言っていませんよね?