交通戦争(実学候補)

日本の吹奏楽の歴史を「軍楽隊からコンサートバンドへ」という流れで整理してしまうとこぼれ落ちるものがあって、そのひとつが消防音楽隊と警察音楽隊かもしれない。

自衛隊音楽隊のように軍楽隊を直接引き継いでいるわけではないけれど、今も地道に活動が続いているんですよね。

で、なぜ消防や警察が音楽隊なのか?

実は私もまだよくわかっておりません。

そもそも、消防・警察とは何なのか、知っているようで知らなかったりしますよね。

警察の誕生 (集英社新書)

警察の誕生 (集英社新書)

早稲田出身のオーストリア文学者がなぜかこういう本を書いているのは、ヨーロッパの帝国や国家の歴史と警察が絡むからであるらしく、ちょっと脱線が多かったり、参照している文献がこれで大丈夫なのかなあと思うところがあるけれど大筋はなんとなく見えてくる。パリの警察の歴史を読んでいると、ギャルド・レピュブリケーヌはどのあたりと関係するのかなあと思うし、ジャーベール警部がレ・ミゼラブルでどんな風に描かれているのか、ちゃんと読まなきゃと思わせられる。

そして『跳ぶが如く』には日本の初代大警視(警視総監)川路利良が登場するそうですね。

翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)

翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)

文庫で10冊もあるのか……。

で、日本の警察音楽隊のオリジナル曲にどういうものがあるかというと、交通安全の啓蒙活動に関連した委嘱作品が色々あるようです。

そこでキーワードになるのが1960年代の「交通戦争」。

概説 交通警察 交通警察活動の歴史と構造

概説 交通警察 交通警察活動の歴史と構造

1960年代に入り、交通事故による年間の死者が1万人を越えるようになって、俄然、社会問題と認識されるようになったのだそうで、「緑のおばさん」とか、横断歩道に黄色い旗が設置してあったりとか、私たちの世代の子供の頃の通学風景の背景にあったのは、これだったんですね。

「チコタン」だけじゃないみたいです。

(そして「交通戦争」と言うときの力点として「チコタン」は交通事故の犠牲者としての子供に焦点を当てるが、あの合唱曲では、誰が加害者なのか明確ではない。当時問題になったことのひとつは高度成長で激増した業務トラックによる事故で、おそらく「チコタン」もそうじゃないかと思うが、他にマイカーブームで、家族でドライブを楽しんでいるときに、親が亡くなり子供だけが遺される、というようなストーリーもあったようだ。いずれにせよ、気が重い話題です。1960年代は、情報社会と言われる今から振り返ると、機械は全く人に優しくない。巨大なマシンと無防備なヒトがむき出しで対峙している感触がある。)

[ちなみに、シートベルト着用とかエアバッグ導入で記憶に残る平成の再度の交通安全の機運は、「第二次交通戦争」と呼ばれるらしい。]

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ところで、上の本は警察官僚さんが書いた警察実務の教科書ということなのだそうですが、この本を探しに梅田のジュンク堂へ行きますと、実は警察関連の本というのは、こうした実務の教科書(警察学校で使ったり、昇進試験のために必要だったりするのでしょうか)や法令関係、犯罪をめぐる読みものなど、たくさんあってびっくりしました。

人文の皆さん、「実学」というやつは、決して経済・経営だけやなしに、ホンマに広大に存在しまっせ。

経営コンサルタントさんへの切り返しは、わたしらが文字通り「世間知らず」なだけで、むちゃくちゃいっぱい色々なやり方があるんとちゃうかなあ、て思ったわ。

たとえば、モータリゼーションの文化史をがーっとやって、搦め手からトヨタとはいかなる企業であるかに迫る、というやり方だってあるわけですよね。そうして、「無用の長物」と言われてる人文学者が、いつの日か企業へ研究調査を申し入れたらええんとちゃうのん。

というより、人文学は、いつの時代もそうやって、いろんな手を講じて生き延びてきたのではなかろうか。

ぼくらの近代建築デラックス!

ぼくらの近代建築デラックス!

GHQは占領政策で自治体警察というのを設置させて、「大阪市警視庁」というのが1947〜1954年には存在した。そして本部は、旧第四師団本部の建物(のちの大阪市立博物館)だったのだとか。知ってました?